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ふむふむと腕を組んで思案をする琥珀さん。
「綺麗なキッチンを見ただろ?麗奈は家事スキルが皆無。掃除もサボりがちだ。できることと行ったら洗濯機を回すことくらいしかできない。こうして私がご飯を届けてやらないと平気で餓死をするだろう。だが私も最近忙しいときがある。そこでだ」
バーッと言い切り一旦言葉を区切る。
「麗奈がこれだけ懐いてるんだ。少年になら麗奈を任せられる。見ての通り麗奈は一人暮らしだ。一緒に住んでやってくれないか?」
この人は母じゃ無い、父親だ。
たまに来て世話を焼いてくれ、を飛び越えて一緒に住めと、本人の意思を無視した提案をする親、俺は嫌だけど。
まあ、麗奈が断るだろ。
『琥珀、名案だね(°▽°)』
「そうだろ!」
良いのかよ。支えるって言った手前、しかもあの事件の被害者で同族意識もある。けど。
「ぬかろ喜びさせたようで悪いんすけど、すみません…姉に養ってもらってるのでそれはできないっす」
「困ったなぁ、それじゃ麗奈が餓死してしまうなあ」
「だから、もし良ければ俺、たまに飯作りに来ますよ。うちに飯を食いに来てもいい」
俺の言葉を聞いて、琥珀さんがニヤリと笑みを浮かべた。
「計画通り。本題を通すなら無理難題を先にふっかける。まさか自分から妥協案を出してくるとは思わなかったがな!」
俺が感じた少しの罪悪感を返せ。
『ごめんね。無理なら大丈夫だよ。コンビニ近いしd( ̄  ̄)』
事情を聞いた上でコンビニ飯を食べさせるのも忍びない。
しかも物価高が騒がれ始めたこの頃、コンビニ弁当を食ってたら直ぐに支援してもらってる金を使い切る。
「男に二言はない、姉ちゃんには話を通しとくから、いつでも来ていいよ。さっきも言ったが、俺に出来る事ならなんでも言ってくれ」
さっきも言ったっけ?あ、言ったことにされただけだった。
『ありがとう、じゃあ早速お洗濯物干して欲しいの(о´∀`о)』
「それは自分でやってくれ」
麗奈の肩を掴み心からのお願いをする。流石に女性の下着を触るのは、本人が良いって言ってても恥ずかしい。
「そ、そうだぞ麗奈。それは自分でやりなさい」
流石に琥珀さんも意図を読み取ってくれたようで助かった。
麗奈の文章を読みがてら時間を見ると既に18時に近い。
「さて、そろそろ帰るわ、姉ちゃんが帰ってくるから晩御飯作らないと行けないんだ」
と帰るために立ち上がる。
「おう、少年、またな!」
『…また、来てくれる?( ;∀;)』
正直年上のお姉さんにキュンときたのは内緒だ。
帰り道を一人歩く、今日は色んなことがあった。疲れた……けど心は意外に軽い。
雪兄が言うように、流されるままに行動して、気付かされて、少しは前を向けるようになれるかな。
そういえばスマホを全然確認してないな。
ポケットからスマホを取り出し画面をチェックすると、涼夏からの不在着信の嵐、むしろ今また着信した。
やべえ、置いて帰ったこと忘れてた。
着信ボタンを押し、通話に出る。
「もしも」
「ごめんなさい!」
「気にすんな、俺も置いてくのはやりすぎた」
「本当にごめんね、家に帰っても居ないから心配したよ……今何してるの?」
本気で反省しているようで、胸がずきりと痛む。
「えっと、麗奈と話してたんだ」
無駄な心労をかけたくないので、涼夏には全て話しておこうと思った。
麗奈と仲良くするなら、関わる事もあるかもしれない。
「お、早速お話しできたんだね!」
「あぁ、すげえ仲良くなってきたよ」
「凄いじゃん!もしかしてライバル登場??むむむ、涼夏さんもうかうかしてられませんな!」
「いや、麗奈はあの事件の被害者の、家族だったんだ」
「なるほど……トラとウマ。それで喋れなくなっちゃったんだね」
「そう言うことだ。今1人暮らしなんだけど、家事スキルが皆無らしい。だからたまに晩御飯に招待する事にしたんだ」
「なるほどね、それなら私と関わる事もあるから話してくれたんだね」
「それだけじゃない、お前には全部相談しておきたいんだ」
「その言い方は反則だよー!やっぱ悠くん昔から変わってないよ、カッコいいよ!」
「うるせえよ」
「えへへ、1人の麗奈さんに自分を重ねて、何かしてあげたいと思ったんでしょ?悠くんはそう言う人だよ!」
「ありがとうな、そろそろ着くから、一旦切るわ」
「うん、また朝起こしに行くね、後、麗奈さんの一人暮らしの事……私に任せて、なんとかするよ」
「何をするつもりだよ」
「涼えもんに任せなさーい!悠くんが仲良くするなら、私の親友だよ、私に考えがあるから任せて」
「お、おう、まあ吉報を待ってるわ、じゃまた明日、今日は楽しかった、ありがとう」
返答を待たずに電話を切る。
絶対に茶化されるからな。
家に入り、手を洗って料理を作っていると
ガチャン、と玄関の扉が開く音が聞こえ、姉ちゃんが帰ってきたみたいだ。
「ふー、つっかれたー!ただいまゆう……葉月ちゃん?」
化粧わすれてたー!!
「ば!これはちが!」
姉ちゃんがカメラをこちらに向け、写真を撮影している。
やっぱりこうなるのか……ちくしょう。
その日姉ちゃんと食べたシチューは何故か塩っけが強く、姉ちゃんがしょっぱそうに食べる姿は可愛かった。