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 秋山さんはテーブルにペットボトルの紅茶を二本置いて対面に座った。


 写真を見ていた事に気づいたのか、写真立てを持って俺の方に向けた。


『私の妹なの、名前は真姫』


 写真を眺める目はどこか遠くを見ているかのようだ。


「妹さんも秋山さんに似て可愛いんですね」


『君は意外とお口が上手だったのね、悪くないけどお姉さんは落とされないよ(^_-)』


 無表情だから考えが読めない。

 

「そんなつもりじゃないですよ、事実です」


『んー、顔は可愛いのに可愛くないなぁ(*´ω`*)』


「男だから可愛いは嬉しくないですよ」


『あはは、カッコいいって言われたいタイプ?』


「そうですね、周りがかっこいい大人ばかりなので」


『行動で言ったら充分かっこいいよ(о´∀`о)見ず知らずの私を助けてくれたしー』


「あれは公園に嫌な思い出があったから」


『ああ、お姉さんの事?』


「知ってるんですね」


自分で何度も公園で、と言ったのでバレていても不思議ではない。

『違うよ、君は覚えていないかも知れないけどあの日あの場所に私もいたの』

 秋山さんは相変わらず無表情だが、雰囲気からは悲壮感が漂う。

 確かに事件前俺達姉弟3人とは別に2人の姉妹が遊んでいた。


『1人は、君のお姉さん、もう1人は逃走しようとして人質に取られた私の妹』


「…………」


『警察が言うには歪んだ性癖を持った変態の犯行のはずなのに犯人は未だ逃走中、おかしな話だよね』


 そう、俺達を襲った犯人は未だに捕まっていない。


『私の家族を壊してさ、君の家族を壊して、今ものうのうと生きてる、同じ被害者として許せないよね』


 俺も、犯人を殺したいほど憎んでいる。


「復讐する気ですか?」


『まさか、一塊の女子高生にそんなこと出来るわけがないよ、君のお家の権力を持ってしても見つけ出せなかったんでしょう?』


 俺の両親は結構な資産家で経済界では少し有名人だ。

 その両親が大金をばら撒いて、俺たちの証言を元に犯人探しを行ったが、見つかることはなかった。


「そうですね」


『思い出させるようなことばかり言ってごめんね、あれから私…声を失って、パパはマスコミの取材に嫌気がさして、自殺してなんでこんな嫌な思いばかりして生きなきゃいけないんだろうね』


 この人もまた、くれることのない悲しみの中にいる。

 俺には幸い菜月姉ちゃんという家族がいた。でも、この人には何も残らなかった。


「なにか、出来ることはないですか?」


『自分で家に呼んで、勝手に話を始めて言うのもなんだけど…それは同情?』


「同情が無いって言ったら嘘になります」


『なら必要ない。』


 パシャリと切られたが、引くことはできない。

 

「寂しくないんですか?」


 こんなワンルームのアパートに一人暮らしで寂しくないはずがない。


『寂しい。でも同情で接されるのは嫌。君を家に呼んだのだって話がしたかっただけ』


「確かに同情はする。けど、会ったばっかでよくわかんねーけど、俺だってあの事件の被害者だ。秋山さんの気持ちはよく分かる」


『君とお姉さんは一緒だけど違うよ。君には両親もお姉さんもいる』


「それがな、聞いてくれよ。秋山さんの言うとおり姉ちゃんは一緒に住んでるんだけど、俺たちは親に捨てられたんだ」


『捨てられた?』


「ああ、親にとって必要だったのは葉月姉ちゃんだけだった。それだけ。まあ、だからなんだって話だけど」


『君も辛いんだね』


「まあ、最愛の姉ちゃんが居なくなったからな。最近まで学校にも行ってなかったよ」


しばらく沈黙が続いた。


『そっか……ねえ。何でもしてくれるの?』


「俺に出来ることなら。ていうかすみません。タメ口になってました」


『じゃあ……私と友達になってくれる?』


「もちろんです、あまり人に話したことない秘密を共有したんで、俺と秋山さんは友達です」


『やった、じゃあお姉さんの事は麗奈って呼んで良いよ』


「了解です、麗奈さん」


『呼び捨て、敬語もいらない\\\٩(๑`^´๑)۶////』


「お、おっす、麗奈」

『これからよろしくね(//∇//)』


なんだろう、相手は無表情なんだが、それがまた気恥ずかしい。

『それでさ、早速だけど、君の髪いじってもいい?』


「切るのか?慣れてるならお任せするよ」


『ううん、妹に良くしてあげてたんだ、君の長い髪をみてると思い出しちゃって(*´∇`*)』


「俺で良いならいいけど」

無表情の麗奈がルンルンと立ち上がり、棚からヘアゴムを出すと、俺の後ろに周り俺の髪に触れた。

菜月姉ちゃんを思い出す暖かい手だ。


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