23頁
「いや、流石に手掴みは…」
衛生上というか。なんと言うか。ねえ。
「悠くん食べなよ」
目覚めてんじゃねえよバカ涼夏。
「食べて…くれないの?」
大きな瞳をうるうるとさせるこちらを上目遣いで見つめる様はまるでチワワのようだ。
悪い事なんて何もしていない筈なのに、なんて罪悪感を抱かせる姿なんだ…...。
「静香ー、俺が食べてやろう…なんでもないです」
救いの手(海)が差し伸べられそうだったが、唯の一睨みで差し伸べかけた手を下げた。
男なら、貫いてくれよ。
口を開くと小さなチョコレートを口に入れられたのだが、宝井さんは気づいているのがいないのか、指先が唇に触れた。
その指に少し溶けていたチョコが付着していたのを軽く舐めとる。
――――――――――――――!
「ふふ、ふふふ、男の娘の赤面ゲット」
ぶいっとVサインをする宝井さん。
わざとかよ!わざとかよ!
俺を辱めた女子3人は各自ニヤニヤとしている横で、海も軽く顔を赤らめている…山本ウィルスは伝染するのか…。
屈辱だ。髪切って男らしくなろう……そう心に誓う。
最後のホームルームも終わり、俺は高速で帰り支度を整え、1人教室をでた。
涼夏達は置き去りだ。昼休みにあんなことをされたんだから知らん。
早足に校門へとかけていくと、見知った後ろ姿を見つけた。
長い青い髪を揺らし、歩く姿は秋山麗奈さんだ。
昨日の事。謝んなきゃ。
でもなんて?向こうは俺の事なんて気にも止めてないかもしれない。
ぐぬぬ、いざ話しかけようと思うと非常に話しかけづらい。
しばらく尻込みしていると麗奈さんが振り向いた。
「お、おっす」
相変わらずの無表情で近づいてきて、スマホに何かを打ち込み、こちらに見せてきた。
『昨日はありがとう、昨日より表情が明るいけど、何か良いことあった?(^^)』
むしろ機嫌が悪いから仏頂面だった筈だが……。
「いえ、昨日は失礼な態度をとってすみませんでした」
きちんと頭を下げ謝罪をする。
すると、暖かい何かが、俺の頭に触れた。
確認する為に顔を上げると、秋山さんが俺の頭に手を当て撫でていた。
『謝れて偉いね、大丈夫だよ。ここじゃなんだから場所移す?(о´∀`о)』
「いえ、謝りたかっただけなんで、それに秋山さんは男性が苦手って幼馴染から聞いてますので俺なんかが…」
『どうしてだろう、男の人は怖いけど、君は平気だね。見た目が女の子みたいだからかな?』
この見た目で得したのは今日が初めてかも知れない。
『だから行こ、昨日のお礼にお姉さんがジュース奢って上げちゃう(^_−)−☆』
「うっす」
昨日の罪悪感がある為了承する。
秋山さんに手を握られ、引っ張られるようにして歩き出す。
弟扱いならぬ、妹扱いなのか…...?
黙って従うとしよう。
綺麗なお姉さんに手を握られて嬉しいとかではない、断じて無い……!
数分ほど歩いただろうか、ボロいアパートが見えてきて、コン、コン、と鉄の階段を上がっていく。
あれ?カフェとか、公園とかじゃねえの?
『ここ、私の家なの、見た目はボロアパートだけど中は汚くないから安心して(о´∀`о)』
「いやいやいや、俺男ですよ!ほぼほぼ初対面ですよ!」
『君は良いの、それに、人がいる所は私が苦手だし、あの公園は君が論外でしょ?』
なるほど、お互いの事を考えて家か...…と納得して良いのか悪いのか分からないが、納得してしまう。
秋山さんに連れられ家に入る。
玄関に入ってすぐキッチンがあるのだが、使われている形跡は無さそうだ。シンクも新品同様にピカピカ。
その奥にある扉を抜けるとベッド、ベッド横にベッドと同じ高さの棚、白い机、二枚の座布団だけが置かれている。
殺風景な部屋だな。
唯一生活感を感じるのは、乱雑に脱ぎ捨てられた、服と…水色の下着。
『普段親友以外を家に呼ばないから忘れてた(^_^;)少し片付けるからそこの座布団に座って待っててね(o^^o)』
と脱ぎ捨てられていた衣服を持って部屋を出て行った秋山さんを尻目に指定された席へと座り込む。
ベッド横の棚には写真が飾られている。
妹さんだろうか、今より少し幼い秋山さんと、その秋山さんをさらに幼くした女の子が映っている。
洗濯機を、動かす音が聞こえてすぐ、秋山さんが戻ってきた。