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「話しは全部聞かせて貰ったわよ、美鈴」
校舎の影から委員長が出てきた。
「唯、盗み聞きなんて趣味が悪いわよ」
美鈴が言い返すが委員長はどこ吹く風
「涼夏スキーの美鈴の事だから、嫉妬に怒り狂っただけかと思っていたのだけれど、美鈴なりに色々考えていたのね。心配だから涼夏を静香たちに任せて来てみたけど無事解決したようで良かったわ」
「別に唯の言う通り、嫉妬で怒り狂っただけだから」
きっと美鈴は涼夏の前以外では素直じゃ無いのだろう。
「春日くん、美鈴がごめんなさいね、いつかあなたが前を向けるようになったら涼夏のことも打ち明けようと思ったのだけれど、荒治療になっちゃったわね」
美鈴の代わりに委員長が頭を下げるが、俺的にはむしろ感謝しているくらいだ。
「頭を上げてくれ、むしろ謝るべきで感謝するべきなのは俺の方だ、2人とも涼夏を励まして、支えてくれてありがとう」
心の底から、感謝の気持ちを伝え、頭を下げる。
「涼夏が好きだから勝手にやっただけだからあんたは関係ない」
憎たれ口を叩く美鈴を見て呆れ顔を浮かべる委員長。
「私は涼夏の友達だからいいのよ、無論これからはあなたも友達よ。だから私の事も唯と呼んでいいわ、私たちが仲良く慣れば涼夏も安心するわ」
「ありがとう、唯」
「どういたしまして、そろそろ教室に戻りましょうか、涼夏も気が気ではないはずよ、心配してこちらに来ようとする涼夏を止めるのは骨が折れたわ」
「何!?私の涼夏が!すぐ戻ろう」
「そうだな」
いち早く戻ろうとする美鈴に続いて唯と歩く。
姉ちゃんが居たら友達ができたことを喜んでくれただろうか。
「もー!私に隠し事ばっかしてなんなのさー!」
「涼夏…落ち着いて」
「おーやっと帰ってきた!」
教室に戻ると、宝井さんに貰ったチョコレートを持ってプンスカプンスカと怒る涼夏と、それを止める宝井さんと海が待ち受けていた。
「ただの友情発生イベントだったわ、そうよね美鈴、悠太くん」
「うん!学校についてからあまり話せなかったから、どうしても気になって、可愛い涼夏の事色々教えて貰ったのー!」
美鈴がおちゃらけて涼夏に抱きつく。朝見た美鈴に戻っていた。
二重人格か?こいつ。
むしろ教えて貰ったのは俺の方なんだけどな。
「もー、険悪な雰囲気だったから心配したんだよー!悠くんも怒り出しそうだったし!もう服掴んで乱暴しちゃだめだよー?」
「もうしないよー、おかげで仲良し!ね!悠太くん!」
余計な事はいうなよ、と美鈴の圧を感じる。
「お、おう」
「えへへ、ならよかったよ、でもお昼食べそびれちゃったね…」
そういえば昼飯食べてなかった。
「急いで食うから弁当くれるか?」
「それがですね…大変言いにくいのですが…」
まさかこいつ。
「食べちゃいました、てへ」
「お菓子を与えて我慢させてたけど、食べた」
宝井さんのペットなのかな?こいつは。
絶望だ、でも、こいつには心労をかけた、怒っては駄目だ……。
どうせ後2時間程したら帰れるんだ、雪兄のとこでなんか食わせて貰えばいいか。
「ん!」
やっぱこいつ良い奴だな。
美鈴が焼きそばパンを食べながら、袋に入ったパンを差し出してきた。
「くれるのか?」
「私が連れ出した所為で倒れられたら寝覚めが悪いからあげるわ」
「わー!美鈴やっさしー!」
「おう、ありがとう」
美鈴からパンを受け取り。袋を開け、一口齧る。
ソースの味が濃厚で美味い。
「どう?」
「あぁ、美味い」
「その焼きそばパン気に入ってるのよね」
と一つ目を食べ終わったのか、二つ目を取り出す、焼きそばパンだ。
袋の中にはもう一つパンが入っているように見える。てことは元々3つだ。
涼夏と言い、類は友を呼ぶのか、結構食べるんだな。
「悠太くん、私の唐揚げもあげるわ、あーん」
と唯が唐揚げを箸で摘んでこちらに向けている…それは流石に…...。
「ぱくっ!んぐんぐ、おいひー!」
涼夏が横から飛びついて、唐揚げを奪い取った。
物を口に入れたまま喋るのはお行儀が悪いからやめなさい。
「あら、じゃあもう一個、あーん」
唐揚げを飲み込んだ涼夏が目を光らせている。
「いや、唯…俺は大丈夫だ」
唯が首を傾げ、不思議そうにしている。
「あー、間接キスを気にしているのね、女の子みたいな顔立ちしているから忘れてたけれど、あなたもちゃんと男の子なのね」
「おう、だから気持ちだけうけ」
「私は気にしないから遠慮なく食べなさい。ほら、あーん」
もう一度飛び付こうとしている涼夏の顔を抑え、あなたには拒否権をなんて無いと言わんばかりに、圧を感じる。
仕方ない、覚悟を決めて唐揚げを、あ、ありがたく頂くとしよう。
「ぐふ、可愛い」
なるほど、唯は隠れ山本さんだったのか。
それなら最初から好意的なのもわかるな。
「唯、ずるい、私のチョコも食べて」
チョコレートの小袋を開け、手で食べさせようとしてくる宝井さん…お前もか…。