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「お断りっす。なんか身の危険を感じるんで……」

「いやーん、連れないなぁ……ちょっとくらいいいじゃない」


そもそも、こちらが善意でしようとしてる事に対しては童貞みたいな反応を見せるのに、何故自分から迫ってくる時は生き生きしてるのかマジで分からん。


迫り来る変態を上手く躱していると、麗奈が不意に立ち止まった。視線は一点を見つめている。


「ん?どうした?」

俺が聞いてやると、麗奈は店の先を指差し、スマホに文章を打ち込んで、こちらに見せた。

『あれ欲しい』


麗奈が指を差した方向には、小さなビニールプールに浮かべられた、水風船がぷかぷかと水面に漂っていて、ビニールプールに群がる子供達が紙で作られたこよりを持って水風船を釣ろうとしている。


ヨーヨー釣りか……葉月姉ちゃんが得意だったな。

昔姉弟3人でこの夏祭りに来て、両手の指が埋まるくらいヨーヨーを釣って帰る姉ちゃんの姿を菜月姉ちゃんがドン引きした目で見ていた事を思い出す。


それだけじゃない、金魚すくいや亀すくい、運の絡むくじや、射的など、何をやってもお宝ザックザクと言わんばかりに景品を持ち帰っていた。


金魚と亀がうようよ蠢く袋をみた母ちゃんが卒倒してそれ以来うちでは生き物の類の出店は禁止になったのだが……。


「おおー、ヨーヨー釣りか。麗奈得意なのか?」


そうではないと首を横に振った。

「じゃあ試しにやってみるか?」

更に首を横に振る。

『でも欲しい』

ヨーヨー釣りに何か思い入れでもあるのだろうか。


「おっ、じゃあ私が麗奈ちゃんにヨーヨーを取ってあげよう」


今日見せ場の無かった神田さんが意気揚々とここ一番の見せ所だと意気込んだが、麗奈が首を横に振る。


『ごめんね美代子。悠太に取ってほしい』


どうしたんだろ、麗奈がそこまで俺がヨーヨーを取ることにこだわる理由がわからない。

でも断るほどでも無い。むしろ幼少期に戻ったような気持ちで、ここは麗奈の為にヨーヨーを釣り上げるとするか。


「じゃあ俺が取ってやるよ」


『(*゜▽゜*)』


顔文字だけで返ってきたのは初めてだ。

俺は意気込んで店の前まで歩いて行くと、財布から500円玉を出して店のおっちゃんに渡した。


「頼もう!」

「お嬢ちゃん……うちは道場じゃねえぞ。一回でいいのか?見たところ初心者っぽいけど一回200円で今なら3回で500円のオマケだ。どうする?」


「一回でいい。泣くなよおっちゃん。俺がこのヨーヨーを全て釣って帰ってやるよ!俺はあの春日葉月の弟だ!」


「なにぃ!?あの伝説の祭り荒らしの葉月!?でも嬢ちゃん、どう見ても女の子だよな……ふかしこいちゃいけねえなぁ」


やってしまった……。おっちゃんの煽りに思わず弟だと名乗ってしまった。

「いやー、妹だった。間違えたんだよ」


「ふむ。あの子に妹なんていたかね。確か双子の妹さんと小さい弟さんを連れてた気がするけど。まあでも嬢ちゃんもよくみると面影あるなあ」

ジロジロと俺の顔を見てくるおっちゃん。いやらしさは無く単純に懐かしむような視線だから通りすがりに向けられるような怖さは無い。


「俺が一番の末っ子だ。名前は由奈」


女装を誤魔化す為だ、ここはその俺が小さい弟さんである事は隠しておこう。


「由奈ちゃんて言うのかい。どうだ、お姉ちゃん達は元気か?最近姿を見せないけど……」


4年前までは毎年のように景品を荒らして帰っていた姉ちゃんが最後の年を皮切りにめっきり姿を表さなくなったから、出店の人達も気になってはいたのだろう。


俺はこの人になんて言ってあげたらいいんだ。

素直に言っていいものか。知らない方が幸せって言う言葉の通り、いい思い出として残してあげた方がいいんじゃねえかな。


「葉月姉ちゃんは遠くに行った……。悠太と菜月姉ちゃんは一緒に住んでるよ」


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