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へたりこんでいた佐々木が立ち上がる。

まるで仇を見るような目だな。俺が何をしたって言うんだ。

「これを語るなら話は長くなるけど構わないわよね?」


「ああ、頼む」


「涼夏と出会ったのは入学式……唯から聞いてるかもしれないけど、私、女の子が恋愛対象なの、でもその頃はまだ恋愛とかに興味がなくて、好きな異性ができない、くらいにしか思ってなかった」


「涼夏に一目惚れだった、運命だと思った…勢い余って話しかけて友達になったけど、いつも暗い表情で、落ち込んでいた、何でか分かるわよね」

間違いなく、俺の所為だ。

「…...俺の所為だよな」


「ええ、そうよ、涼夏はいつもいつもあなたを心配してたの、あなたのお姉さんから時々連絡があったみたいね、不良に混ざって喧嘩ばかりしてるって」


姉ちゃんとは連絡を取っていたのか、知らなかった…...。

もっとも連絡先を知ってても俺から電話を掛けることなんてしないか。


「大好きな幼馴染が全てを投げ出して逃げて、たった一回の連絡もよこさず、聞いた話では非行に走ってるって人伝に聞いて、あなたが逆の立場ならどう?心配じゃないの?」


 きっと正常なら居ても立っても居られない。心配で出来るなら連絡を取ろうとするだろう。


「そんな涼夏を私は唯や、静香を巻き込んで毎日必死に励まし続けた、たまに笑顔を見せてくれるようになった、あの子が笑ってくれた時には涙が出そうになった」


 あいつの事だから、心配はされても、なんだかんだで明るくやっていた、と思っていた。

 思っていた事の全てが間違いだったんだ……。

「数日前に涼夏から聞かされた、大事な幼馴染がこの街に戻ってくるって…」

「その日から今日までの涼夏はこれまでの暗い表情が嘘のように明るくなった……」


 突然、胸ぐらを掴まれ、校舎の壁に叩き付けられた。

 背中に痛みが走る。でも動けない。

 眼前に涙目の美鈴の顔が迫る。

「これがただの嫉妬だって言うのはわかってる!!本当は一緒に喜んであげなきゃいけないのもわかってる!!それでも、それでも…私は…私は、全て投げ出した癖にある日ひょっこり帰ってきて、涼夏が四年間の間どうしてたかも知らずに、必死に努力した私より、あんたが涼夏に好かれてるのだけは許せなかったのよ…」


「いや…佐々木の言う通りだ…俺は何も知らなかった…」


「あんたのお姉さんのことだって知ってる、この町で大きな事件だったから…逃げ出すのもわかる」


「でも、じゃあ、知らなかったで許されるの…?あの子は健気に四年間待ち続けたのよ…?」


 俺には何も言えない。


「何も言えないわよね、だってあんたは未だに引きずっていて前を向いていないんだから」


「あぁ……」


「あんたが自分の事しか考えて無さそうだから、私も私の想像で私の都合を言わせてもらった」


 俺は、自分の理想を涼夏に押し付けていた。

 優しい涼夏なら無条件に寄り添ってくれると……。

 実際そうだ、戻って二日間だが、涼夏は色々と助けてくれる。

 でも、それじゃ駄目なんだ。

「ごめん」

 自然と謝罪の言葉が口から出た。


「でも、俺も変わりたいんだ…...昨日、泣きながら涼夏に誓った」

「それは、私もごめんなさい、言い過ぎた」

「いや良いんだ、前を向けていないのも、何も知らず自分の都合で涼夏に甘えようとしていたのは事実なんだ」


 優しさに甘えて、泣いて、励まして貰って、心配かけて。

 自分の周りの人はゆっくりで良い、流れに任せてって言ってくれる。

 それも駄目だ。

「なあ」


「なに?」

「ありがとう」

「は?こんだけ言われてあんたマゾなの?キモいんだけど」


「違う、佐々木には色々気づかせて貰った、優しい周りの人は誰も俺を責めない…言い訳になるけど余裕のない俺は気づけなかった」

「まるで私が優しく無いみたいな言い方ね」


 と、また佐々木の目つきが鋭くなる。


「そうじゃない、距離が近すぎて言えない事もある、佐々木は初対面だけど、教えてくれた」

「ばかね、ただの嫉妬、朝見たあんたが呑気に涼夏の隣にいたからムカついただけよ」

「それでもだ、俺から見た佐々木は涼夏並に優しいぞ」

「あんたに優しいなんて言われても嬉しくない、涼夏とお揃なのは嬉しいけど」

「それと、これからも懲りずに涼夏と一緒に居るなら、私の事は美鈴と呼びなさい。私も悠太って呼ぶから、仲良いフリよ?ふーり」

 フリとは言っているが、俺は美鈴となら、良い友達に慣れそうな気がする。

「わかった、よろしく美鈴」

「ええ、よろしく。後今は涼夏があんたの事が好きでも涼夏と付き合うのは私だから、それもよろしく」

「それは涼夏次第だな」


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