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転入初日の午前中の授業だが、姉ちゃんの言いつけを守って勉強を怠らなかった俺にとっては、退屈そのものだ。

休み時間になる度に詰問してくる涼夏をはぐらかす方が大変だった。

時が経つに連れ焦ったくなったのか激しく質問を繰り返す涼夏を見た佐々木が恨めしそうに、カッターをカチカチ出し入れしてたのは、きっと気のせいだろう。



そして昼休み。俺は、涼夏の友達と集まって昼飯を食べる事になった。

流石に午前中涼夏に話しかけられなくて痺れを切らしたであろう佐々木も居る。

さすがに、涼夏の前では取り繕っているので、概ね、空気は和やかだ。


 そんなことよりも、そう言えば弁当が無い…...と思い焦っていたのだが、蓮さんから涼夏が預かっていてくれた。

 だが、やつは今目の前で弁当を渡さまいと高く掲げている。別に奴の食い意地が張っているわけでは無い。

「さぁ、そろそろ吐いたらどうだねっ、こっちには人質が居るんだ!」

「人では無いわよね、それにさっきから、ただの相談事だって言ったじゃない」

「そうね、涼夏、意地悪は良くない」

 委員長と宝井さんが味方をしてくれるが

「私と悠くんの間に隠し事はなしだもーん!」

と頬を膨らませて抗議する涼夏。

 ……ぷつん、何かが切れる音が聞こえた。

 音の発生源は不気味な笑顔の佐々木だった。

「涼夏、悠太くんを借りていくわね」

「ぐへっ」

 このままでは埒が開かないと、委員長が涼夏から弁当を奪い取ろうと動き出したその時だった。

佐々木が立ち上がり、俺の襟首を掴むと、引き摺るように教室を飛び出した。


「ま、待て、自分で歩くから、首が閉まる!」

 特に抵抗する気はない。むしろ抵抗した所で無駄なくらい力が強い。

「離したら逃げ出すでしょ、このまま連行するから」

 ただ、もういい加減イラついてきた。

 佐々木にしろ立花にしろこっちだって初対面でこんな扱いを受けるのは非常に不服だ。

「逃げないから離せよ」

 力ずくで止め、睨みをきかせる。

「なによ」


「美鈴ちゃんどうしたのー?」

「待ちなさい!」

 遅れて涼夏達が教室から出てくる。

「涼夏、何でもねえから教室に戻ってろ…佐々木、俺と話したい事があるんだろ?行こうぜ」

 が怒りを抑えきれず、冷たく突き放してしまった、

委員長も心配そうにこちらを見ているが、涼夏には隠している事なので口を挟むことは無い。


「ええ、お話があるの、大丈夫よ涼夏、ただのお話しだから」

 手遅れだとは思うが、涼夏の前だとあくまで平静を装うか。

 嫉妬に怒り狂う猛獣にしてはダイヤのようなメンタルには感服する。

「美鈴、なんで悠くんに対して乱暴にするのさっ、なんでそんなに険悪なの!?」

「はぁ、涼夏、教室に戻るわよ」

「いやだ!2人が険悪なんて嫌だもん!なんでそうなってるのかわからないし!」

 言葉で抵抗する涼夏だが委員長には強く出れないのか、いつもの我儘を発揮する事なく、手を引かれて教室へと連れ帰られて行った。


「校舎裏に人気のない所があるから、ついてきなさい」



「さて、これであなた(邪魔者)を思う存分ボッコボコにできる、抵抗してもいいよ、私、空手やってるけど」

パキパキと拳を鳴らして交戦的な笑みを浮かべる佐々木に対して、俺は冷たく睨むだけ。

「俺は話をしに来たんだけど?」

どれだけイラついても姉ちゃんの教えは絶対だ。

それに、こいつはただ嫉妬に狂ってるわけじゃなくてこいつなりの考えと理由がある、話を聞かない訳には切って捨てたりできない。

「話す事なんて無いわ、これから行われるのは一方的な殺戮だから…ね!」

俺の顔面を目掛けて佐々木の右足の蹴りが飛んでくる。

身長差があるので、自信満々に打ち込まれたであろう蹴りを受け止める。

「なよなよした男女の癖にやるじゃない」

「なよなよした、男女も一撃で沈められねえんだ、一旦話を聞けよ」

「余裕ぶってられるのも今のうちよ」

右足を引く反動を利用して左のストレートが飛んでくるが、それも躱す。


「今まで自分より弱い奴しか相手したこと無いんじゃねえのか?」

 これは疲れさせないと話できそうにない。

 ヤレヤレと首を振り、挑発する。

「このお!」

 挑発に乗ってくれた。スイッチしての右ストレート、左正拳突き、全てをかわし、間に合わないものだけ、ダメージを最小限にいなす。



「……はぁ、はぁ何であんたなんかに躱せるのよ!」

「くぐってきた修羅場の数がちげえんだよ、そろそろお話しできるか?」


 格が違う事を教えてやった。

 息を切らした佐々木がようやく、ぺたんとへたり込む。


「話せよ、お前にはお前なりの理由があるんじゃないのか?」

「四年も涼夏をほっといたあんたに話す事なんてない!」

「……」

「あんたが居ない間の涼夏の事なんて知らない癖に今更のこのこ戻ってきたあんたなんかに話す事なんてないわよ!」


 佐々木が怒っているのは、ただ単に嫉妬や恋愛感情だけじゃ無い……今まであった心の余裕が消え失せた。

 まただ、胸が苦しくなってきた。

「悪い、俺に教えてくれ」


 絞り出すように、声を発する。

「何よ、まさか何も知らないで戻ってきたとは言わないわよね!」

そうだ、俺は空白の四年間を知らない、心配してくれていたことしか…...。


「どれだけ最低なの?あなた、知らないならいいわ、教えてあげる、あんたがどうしようもない人間だって再認識すればいいわ」



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