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――――――――


涼夏と麗奈の百合百合した最高の空間も終わり、姉ちゃんの挨拶によって締め括られた誕生日会も終わりを迎えた。

流れによって自動解散となった今、残った大人たちと片付けに勤しんでいる。

メンバーは神田さん、山本さん、姉ちゃん、雪兄と俺。

伏見さんは未成年を歩いて帰らせるわけには行かないと、いつもの漢気を見せて、みんなを車で送って行った。


蓮さんは忘れ去れたように床に伏して寝ていたので、ソファーまで運んで寝かしている。

流石に成人女性を隣の家まで運ぶのはちとしんどい。

ちなみに、涼夏と唯と麗奈の三人は今頃、仲良く湯船に浸かっている事だろう。

麗奈のお陰で和解が成立してよかった、本当に。


台拭きで使ったテーブルを磨きながらそんな事を考えている。


「あ、集合写真」


俺の隣で何の意味があるのか、同じテーブルを拭いていた姉ちゃんが思い出したように呟いた。

正直邪魔なので別のテーブルを拭いて欲しいのだが、何故か順番についてくる。


「折角集まったのに撮るの忘れたなー!」

キッチンの方で皿を洗っていた雪兄が言った。


「集合写真なんて、これからいつでも撮れるだろ。それに今日は蓮さんがダウンしてるし、また誰かの誕生日の時にでも撮れば良いんじゃね?」


投げやり気味に答える。

みんなの誕生日がいつかなんて聞いた事が無いからわからないけど、これだけ人数もいるんだし、誰かしら近いだろ。


「悠太くんもたまには良い事言いますね〜」

神田さんと飾りを撤去していた沙織さんも会話に入ってきた。


「良い事って言うか。まあ普通でしょ」


「ふふふ、初対面の時の悠太くんだったら、望んでいても口には出さなかったんじゃ無いですか〜?」


孤独。それでも構わなかった。

姉ちゃんの事さえ忘れられれば。

家に帰らず歩き回っていれば考えなくてすんだ、じっとしていたら姉ちゃんの死に際が頭をよぎって頭を悩ませた。

眠ろうとすれば夢に姉ちゃんが出て来た、そしてまた忘れようとして一人歩き回る。


俺は確かに、この町に来て出会った人達に何かを貰った。


「まあ、時間が経てば考え方は変わるもんっす。3ヶ月も経ちますからね」


「んん?悠太くんに昔何かあったの?」


あー、あまり周りに言うことでも無いと神田さんには俺の事情は話してなかったんだった。


この人と出会って1週間も経ってないが、俺は神田さんの事情を知っていて、神田さんは俺の事情を知らないと言うのはあまりにもフェアじゃ無いんじゃねえかな。


「暗い話になるけど」


意図せず静かな声で言った。多分聞き取れてはいるだろう。

隣にいる姉ちゃんの、台拭きを持つ手にぎゅっと力が篭った。

姉ちゃん、気持ち的には一緒だ。俺も出来るなら楽しかった会の後にこんな話はしたく無い。


「なら、今日はやめておこう?折角の涼夏ちゃんの誕生日だし」


こちらの気持ちを察してくれたのか、神田さんは何も言わずに引き下がってくれた。

ここ数日の間彼女と接して来て分かったのは、変態だけど、凄く気を遣える人だと言う事。

ただ暴走モードには注意だ、妄想だけの沙織さんと違って実害がある。


「あら〜悠太くん。今私のことを考えていませんでした〜?ふふふ」

ねっとりとした視線を後ろから感じて後ろを振り向くと、沙織さんが光悦とした表情で舌なめずりをしながら俺を見ている。



「気のせいっす、だからさっさと手を動かしてください。早く終わらさないと姉ちゃん達も明日仕事なので」

「は〜い。ふふふ、素直じゃないですねえ」

軽く窘めると作業に戻った。

今日1日、めいっぱい付き合ってくれた沙織さんにこんな事を言うのは忍びないが、直感で身の危険を感じた。

前言撤回だ。この人も実害のある変態だ。





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