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評価感想ブクマどれかひとつでもくれたらうっれしい!!
姉ちゃんに断りを入れて蓮さんに一応苦言を呈しておく。一応と言うのは。
「ご託はいいからさっさとこっちにきなさい。お母さんの言うことが聞けねえのか?」
俺が何かを言ったところで、酔っ払った蓮さんには通じないからだ。
いつもより更に甘く優しく間伸びした声で語りかけてくる反面、気に食わないことがあると一瞬でヤンキーモードが出てくる。
ヤンキーの世界は強い者には逆らってはいけない、かと言って俺がその枠組みに位置付けられていたかと言えばそうではない。
俺は基本的に一人で深夜徘徊をして、売られた喧嘩を買っていただけなので、自分をヤンキーだと思った事はないのだが……この人に逆らってはいけないと本能が俺に告げている。
「麗奈……移るぞ」
麗奈が頷いた。姉ちゃんの開会宣言を止めないようこっそりと立ち上がると、蓮さんに指定された通り、膝の上に座る。
未亡人の膝の上と聞けば男子なら誰もが憧れるようなフレーズも、今の俺にとっては地雷の上に座らされているような感覚だ。
動いてはいけない。刺激したら爆発する。
「言う事聞けていい子ね〜」
背中に当たる柔らかい物と腹に手を回され頭を撫でられる感触に、俺の心臓はドキドキと鼓動が早くなるが、この人は幼馴染のお母さんであることを忘れてはいけない。
蓮さんの酔いには5段階あって、この状態はまだレベル2だ。
レベルが上がるごとに愚痴っぽくなっていき、それに伴って行動も、大胆になっていく。
これ以上この人に酒を飲ます事は避けなくては……。
「それでは長々とお話しさせていただきましたが!皆さんお手元のグラスをもってー!」
「はい、蓮さんこれ持って」
「ありがとう悠太くん〜」
蓮さんに差し出したのは、俺用に渡された子供の飲み物だ。
代わりに俺が大人の飲み物を飲む事になるのだが、なりふり構ってられない。
口をつけて含まなければ問題は無いだろう。
「涼夏誕生日おめでとう!!かんぱーい!」
「「おめでとうー!」」
姉ちゃんの一声で蓮さん、麗奈とグラスを合わせ、蓮さんが中身を飲み干すのを横目に、グラスに口だけを付けて飲んだふりをする。
「っぷはー!やっぱりこれビールに味も似てるわねぇ」
何!?まさか……。
自分の唇を舐めてみる……甘い。
天然の二重トラップをかまされた、気を遣って入れ替えたのが裏目に出ると誰が思っただろうか。
「ふふふっ、空気で酔っちゃったのかしらぁ」
馬鹿なこと言うな。貴方が飲んでるのは正真正銘のビールだ。
一度、蓮さんから被害にあった事のある麗奈が信じられないものを見る目で蓮さんを見て、スマホに文字を打ち込んだ。
『これ以上飲ませたらまずいよね(^◇^;)』
蓮さんに聞かれないよう耳を寄せるよう麗奈に合図をする。
「出来るだけ水だ。水を飲ませろ。早く酔いを覚まされるしかこの最悪な状況を脱する術はない」
『お姉さんに任せて(*゜▽゜*)』
強い意志を持って立ち上がり麗奈が水を取りに行った。
「私を除け者にして内緒話なんておばさん寂しいわぁ」
頭を抱えられ、ぎゅむぎゅむと後頭部に柔らかい物が押しつけられる、あの一杯で既にレベル3だ。
その様を麗奈がこちらを振り向いて心配そうに見ている、俺に構わずミッションを果たせ……ここは俺が食い止める。
「涼夏のプレゼントの話っすよ。蓮さんは何を用意したの?」
「私はねぇ。ひ・み・つ」
語尾にハートマークがつきそうな程甘い声で言ったのは何度も言うが幼馴染の母親。
「乾杯も終わったところでまずは食事を楽しみましょう!」
姉ちゃんの長い開会も終わりを告げて涼夏と2人こちらへとやってきた。
「悠くんを膝に乗せて何してるの……?ってお母さんお酒くさ!!まさか飲んだの!?」
やっときた救世主も酒に酔った母親の異変に気づいて引き攣り顔だ。
お前の母親だろ、何とかしてくれることを願う。