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涼夏の思わぬ反応に逆に俺たちの方が呆けてしまった。
「あーっはっはっはっ!サプライズありがとっ!」
バチコリとあざといウインクを決めて言った。
どこだ、どこでバレたんだ。そんな素振りは一切見せていなかった筈なのに……。
「涼夏ちゃん。いつからわかっていたのですか〜?」
いち早く正気に戻った沙織さんが口を開いた、それでも動揺が隠しきれずに目が泳いでいる。
「んっふっふ〜そんなの簡単な事ですよっ犯人は〜」
まるで国民的探偵アニメのように、天に向かって人差し指を立て、一度止まった、その場に緊張感が走る。
「悠くん!あなただ!!!」
そう言って涼夏が指を指したのは、まさかの俺。
みんなの、侮蔑にも似た視線が俺に集まる、やめて、そんな目で俺を見ないで。
「確かに私は誕生日の事を忘れてたよっ!でもね。今日の悠くん何かと私に気を使ってるんだもん。勘繰っちゃうよ」
『確かに君はいつも怒るところで涼夏に怒らなかったね(^◇^;)でもそれだけで誕生日だって気づいたの?』
そうだ。それだけで日付を確認する程こいつは賢くは無い。
じゃあ一体全体、核心に差し迫った理由はなんだったのか。
「それは単に動物園でおトイレに寄った時に美鈴から嵐のように届いたラインを確認した時に日付を見ただけだよー!これ見て!」
涼夏が突き出したスマホの画面に書かれていたのは美鈴から届いた、長々と書かれた愛のメッセージ。
涼夏。お出かけ楽しんでる?から始まる、うざったいほど長ったらしい文章を流し読みしていくと、ひっかかる一文を見つけた。
「……生まれてきてくれてありがとう。文句無しにこれだろ」
涼夏が首を横に振った。
「違うよ。それじゃ無いんだなー!いつも言われるもん。それ!」
ふええ、毎日この長文が送られてくるのか……。愛が重すぎる。
「正解はね。今朝急遽お出かけが決まったのになんで美鈴が知ってるのか!それは少なくとも悠くん達と何かを企んでるからです!」
「……俺が美鈴に話したかもしれないだろ」
「ッチッチッチ。それもないねっ美鈴が知ってて大人しくしてるはずが無いもんね!それに悠くんの変な気遣い!怪しいところだらけだったのさ!」
肺の中に溜まった空気を吐き出して天を仰ぐ。俺達の負けだ、ぐうの音もでない。
まさか、今日集まった中でも涼夏のことを特に喜ばせたいと思っていた俺たちが原因で本人にバレるとはな。
「俺は……間違っていたのか」
天を仰いだまま膝をつく。
「ふっ。幼馴染の私を騙そうなんて百年早いよ。ほら、元気出して、私の誕生会しよ」
なんで涼夏はこんなにも優しいのか。失敗した俺に手を差し伸べ、慰める涼夏の背後には後光が差してるように見える。
「俺は……俺……は……みんな、悪かった」
「いいのよ悠太くん。失敗から学ぶことだってあるわ。この失敗を次に生かしなさい」
いつの間にか玄関の外に出てきた蓮さんが涼夏の後ろで微笑んでいる、天使と大天使、ここが天国か。
「そうよ!悠太くんの失敗を持って私たちも次に進むわよ!」
美鈴。お前は違う。こっち側だ。
そもそもお前が今日だけでも長文メッセージを控えていればぎりぎりバレなかったんだ。
でも、同調圧力ってあるよな。みんなで俺に慈愛の眼差しを向けて口々に許しの言葉を言ってやがる。
「ありがとう……みんな。こんな俺を許してくれて」
全員から向けられる慈愛の眼差しに、俺は喉からでかかった美鈴への苦言を飲み込んで、自分を納得させ、涼夏の手を掴んで立ち上がるしかなかった。
だがこれだけは言える、美鈴、覚えとけよ。
心の中で悪態をついて自宅の玄関の敷居を跨ぐ小心者の俺であった。




