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人差し指を離して無表情に戻ると、俺の手を頭から退けた。
「どうした?」
問いかけると、首を横に振り、止まったかと思うとはぁっと息を吐き出して、ぷいと俺から顔を背けた。
意に削ぐわない反応だったんだな……俺にどうしろと。
「真剣に。可愛いって言ってあげてください〜」
沙織さんに肩を掴まれ、ぐるりと体ごと麗奈の方に向けられた。
真剣に……。
「……か……かっ」
言おうとして口を開いたものの顔を背けたまま横目でチラチラと俺を見ている麗奈と目が合うと、言葉が詰まってしまう。
「だめですよ〜ちゃんと目を見ていってあげないと〜」
恥ずかしくなって顔を背けようとすると、今度はガッチリと両手で顔を固定された。
ドキドキと心臓の鼓動が速くなり、顔が熱くなってきた。
……逃げられない。
「……か、可愛いぞ」
息の詰まった喉から絞り出すようして、一言を吐き出した。
カシャっと音がして麗奈がスマホの画面を確認している。
…………やられた。
――――――――
「悠くん、なんでそんなにげっそりしてるの?」
花摘みから戻ってきた涼夏が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
まさか涼夏に感極まった年上のお姉さん2人に弄ばれて疲れた、などと言うわけにいかない。
「……この場に置いて俺の癒しは俺だけだよ」
よくわからない、といった表情を浮かべる幼馴染を見ながらしみじみと思う、なんでこう年上ってのは強制力を持って年下を使うのか。
これが社会に出る予行練習と言うなら俺は子供のままでいたいものだ。
親父の会社を乗っ取ってやるって宣言したものの幸先が不安になるな、下積みでこき使われるのが目に見える。
「本当にどうしたの!?目に光が宿ってないよ!?」
「いや……いつか大人にならなきゃいけないと思うも憂鬱でな……ハハッ未来が見えねえや」
「ね、ねえ沙織さん!私がトイレに行ってる間に悠くんの身に何があったんですか!?」
俺を困らせるのはこの人しかいないと踏んだ涼夏が沙織さんに詰め寄った。
その人も間違いでは無いが、もう一人の主犯は俺の後ろで涼しい顔をしてスマホを見つめている。
「悠太くんも騙し合い。という世の中の厳しさを知ったんですよ〜きっと」
騙し合いではなく一方的に騙されただけで、抵抗する暇も与えられなかったんだが?
「悠くん……辛かったんだね。うさぎさん見て癒されにいこ?」
そうだ、これから小動物エリアに行くんだった、小さくも懸命に生きている彼らはきっと俺の荒んだ心を癒してくれる事だろう。
「うっし」
自分の頬を両手で打ち気合いを入れて立ち上がった。
「行こうぜ。動物が俺を待ってる」
その場にいた誰もを置き去りにして歩き出した俺の足取りはいつになく軽かった。
触れ合いコーナーとだけ簡素に書かれたゲートを越えると、住み分けさせられた犬、猫、ウサギが柵の中で走り回っていて、人馴れしているのだろう。俺たちが入った瞬間には飼育員さんをそっちのけで俺たち寄りに集まってくる。
俺は迷うことなく一直線に犬が飼育された柵の入り口へと向かっていく。
「入っても良いっすか?」
飼育員のお姉さんに声をかける、早くしてくれ、犬が俺を呼んでいる。
くっ、歯をむき出しに、つぶらな瞳で俺のこと見つめやがって、そんなに嬉しいのか。すぐに撫で回してやるからな。
「あのー……威嚇されているようなのでやめておいた方が……」
これがこいつらの愛情表現では無いのか?
「ウーっ!」「グルル!」「ワン!ワン!」
ほら、こいつらも俺を迎え入れようと声をあげているし、なんなら道端で散歩している犬に会うといつもこんな感じだ。
「こんなに可愛く吠えてるのに威嚇されてるわけ無いっすよ」
困り顔の飼育員さんが何やら言いたそうに口をパクパクと開閉させている。
「いやいや、めちゃくちゃ威嚇されていやすよ悠太さん」