表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/667

83頁


言葉自体自然なものだったが率直に思った事を言ってみた。悲しげな瞳で遠くを見る表情が受付のおっさんと被ったからだ。

「別に面白い話でもないですよ」

いつも間延びした声で話す沙織さんにしては、やけに簡素に短く紡いだ。

「沙織さんが嫌じゃなきゃ話せば?」

「ふふっ本当は聞きたい癖に〜……この動物園が今日で閉園するんですよ〜」

「それは入り口のおっさんから聞きました」

聞きたくないと言えば嘘になるけど、無理強いして聞くのは気がひけるしな。


「なら話は早いですね、昔、母が存命だった頃、両親と3人でよくこの動物園に連れてきてもらったんです〜」

「お母さん亡くなられてたんだな……」

沙織さんの母が亡くなっていた事すら初耳だ。

そもそも話し、沙織さんは自分の家庭環境に引け目を感じているのか自分から両親や自分の過去について語ったりすること自体が珍しい。


「ええ、私が小学生の頃に病気で他界しました。優しくてなんであんな見た目の父と結婚したのかわからないくらい綺麗で……自慢の母でした〜」


母親の話を始めたタイミングで麗奈の眉がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。

麗奈の母親は真姫ちゃん亡き後浮気相手の男と失踪したと聞いたことがある。

きっと自分の境遇と照らし合わせて思うところがあったんだろう。

麗奈がキュッと俺の服の裾を握った。


「いいお母さんだったんですね」

ポツリ、涼夏が感情移入したように呟いた。

「そうです〜。この動物園に来る時は組の仕事でいっつも居ない父が朝から家に居て、母は美味しいお弁当を作ってくれて、それで私はここに来るって気づくんですよね〜」


言葉を区切り、懐かしむようにふふっと思い出し笑いをした。


「数少ない子供の頃の楽しい思い出でした。まあ、母が亡くなってからは父は組の仕事一本になってしまったので、ここに来る事は無くなったんですけどね〜」


今度は嫌悪感を押し出しぐっと唇を噛み締めた。

俺たちはなんで言葉をかけていいのかわからず、押し黙った。

「結局……母が口添えをして連れて来て貰ってたんですよ〜想像でしかありませんけど。それで今日ネットニュースをみて、ここに来ようかなって思ったんです」


「そうか。この動物園は沙織さんの思い出の場所だったんだな」


「そうですねえ〜。本当はちゃんと周りたかったんですけど暴走してしまったので仕方ありません……まあでも。悠太くん達が楽しんでくれたならよかったです!小動物エリアで癒されて出ましょうか!」

普段通りの温和な表情を張り付け、頭をかきながら言った。

急に罪悪感が湧いてきた、そこまで楽しんでもないからだろう。


「あーあー、私。もう一回周りたくなってきちゃったなー!」

誰もが口を継ぐ状況で、涼夏1人が声を上げた。

そうだよな、お前は誰か1人が楽しくないと自分も楽しくない、そんな優しいやつだ。

「そうだな。俺ももう一回周りたくなってきたわ」

それなら俺も、乗っかって合わせてやるだけだ、誕生日だからこいつが精一杯楽しめるように。

『もう一回パンダ見たい(*゜▽゜*)』


気を使ったのは偉いが、園内マップにパンダがいるなんてどこにも書いてなかったと思ったけど……。


俺たちの気を使っている感満載のやり取りに、沙織さんはクスッと笑った。


「ふふっ、君達に気を使わせてダメな大人ですね〜」

「沙織さんはいつも暴走してるから今更だ。それに俺たちも気を使ってるわけじゃないっす」


楽しい所か、げんなりするものを見させられてここにいる訳だから。

野生の本能と言われればそこまでだが、あれがなければ、もっと楽しめる気がする。

きっと動物達も今日で離れ離れになるかもしれないと、寂しさを感じ取って愛を確かめ合っているのだろう。

そう自分を納得させるのは流石に無茶があるか?いやきっとそうだ。


「じゃあ〜ダメな大人に付き合ってもう一回付き合って貰ってもいいですか〜?」

こうして俺たちはもう一度、動物園を回ることとなった。


「あ、ただし、ライオンと猿はお腹いっぱいなんで、そこは飛ばして周ろうぜ」

それだけは釘を刺させて貰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ