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迫り来る恐怖、蘇るトラウマに涼夏がキュッと、目を瞑ったところで、頭の上にポンと手を乗せた。

「……ふぇ?」

瞼をパチパチと瞬かせ、瞳を揺らしている。


「冗談だよ、こんな往来でそんな事するわけないだろ。他に客がいないとは限らない」

そもそも今日が誕生日のこいつに罰ゲームなんて酷な事するわけがない。

逆を言うと誕生日でなければとっくに泣かせている。


「むぅ。なら最初からやらないでよー!」

ピーチクパーチクうるさい奴だ。

この先で騒いでる猿と変わらないぞ。




「ほら涼夏、あそこに仲間がいるぞ」


少し進み、さっきの仕返しにと、視線の先で戯れている猿を指して言ってやる。


「ゆ、悠くん……あれが私の仲間?」


頬を染め、あわあわ口を動かし、猿の集団を見て目を丸くした。

なんだどうした?てっきり怒るものだと思っていたのだが、目を凝らして、猿の集団を注視する。

あー……うん、見なかったことにしよう。

「さて、次行くか」


「……うん」

まさかね、文字通り猿のように盛り交尾している猿と俺の可愛い幼馴染が仲間な訳がない、うん。

麗奈や伏見さんなんて発言すらしていない。

姉ちゃん達と母さんと四人で家族団欒、テレビ中継を見ながら晩飯を食っていた時だ。こういった場面に目撃した覚えがある。


その時の事を思い出す、慌てて菜月姉ちゃんの手で目を塞がれた。

あの時はまだ保健体育すら受けていない小学生の時だったから何のことか分からなかった。そうか、あれはそう言う事だったのか。

菜月姉ちゃんには「悠太にはまだ早い」と怒られ、葉月姉ちゃん、母さんは無言で飯を食い、あの後の気まずい空気ったらなかった。


それを今味わっている。

「なぁ次の動物はなんだ?」

話題を逸らしたくなって、マップを開くように促す。

「次はねえ、ライオンだよ」


すっかり冷めてしまったのか流し目で低い声。

「そうか」

げんなりとした足取りで、長い道を進む。

雄雄しき姿で立つライオンを想像しながら檻を見て、一同絶句。

雄々しい姿と言うのは間違いない、のだが、猿の檻と同じような光景が目の前で繰り広げられていた。

全員が麗奈のような無表情で、ライオンの檻を通り過ぎていく。


「沙織さん迎えにいって、出ようか」


気持ちは同じだ。みんなコクリと頷いて空を見上げた、雲ひとつない晴天の空が広がっている。


ごめんおっちゃん。営業最終日……楽しんでやれないわ、盛りすぎ。


「悠太さん、ここは伏見に任せて先に外に出ててください。お嬢を呼んできやす」

任侠立ちを思わせるような仁王立ちに抑揚のない声で言って伏見さんが去っていった。

誰も彼を引き止めたり追いかける人間はいない。


「んじゃ、いくか。涼夏、マップ貸してくれ」


「うん」


涼夏が持っている園内マップを受け取る。

ここからできるだけ動物を見ずに最短距離で外に出れるルートは……などと、何故この場にいるのか神経を疑ってしまうような事を考える。


「はぁーっ、よし、こっちだな」

「もう交尾見なくて済む?」

そう、俺たちは動物の交尾を見にきたわけではないのだ。

「もう大丈夫だ。ここから他を見てまわろうとしなければすぐに外だ」


幸いまだ入口付近のこのエリアは、小さな円を描くようにして出口に繋がっていて、でも別に動物園の規模が小さいわけではなく、小さな円の外側にまた広大な土地が広がっていて更に他の動物を見に行こうとすると距離が長くなるみたいだ。

『この出口付近で小さい動物との触れ合いコーナーがあるみたいだからそこだけ見ていかない?』


俺の方口に顎を乗せ、麗奈が提案してきた。

触れ合いコーナーとあれば飼育員もいるだろう。

流石に!もう流石に!お茶の間には流せないようなシーンが垂れ流されてる事もないだろ。


「いいですねっ!わんちゃんも猫ちゃんもいるって書いてあるし!わー!うさぎもいる!」




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