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「それはない、断じて無い!」

 必死に首を横に振りアピールする。


「そうだよね、成立したら私の出番なくなっちゃうし…」

「え?お前俺のこと好きなの?」


 反射的に口に出てしまったが時すでに遅し、ナルシストみたいな事を言ってしまった。


「そうだよ、じゃなきゃ幼馴染とは言え流石に抱きしめたりしないよ」


 笑いながら何ともなしに涼夏が言うが、正直突然の事に動揺している。

 四年間を空けていたとは言え、涼夏とは兄妹の様に育ってきた、恋愛対象として意識した事がない。


 何より、そう言った事を考える精神的な余裕がなかった。

それでもこいつは四年も合わなかった俺のことを好きでいてくれた……。


「今のは告白じゃ無いから、勝手に振らないでね」

 何も言えないまま無言の俺の内心を察したように涼夏が立ち止まり、言った。


「悠くんが今は恋愛とか考える余裕なんて無いのはわかる、それでもこれからどんどん私の魅力を教えてあげるからね!だから」


 堂々とした彼女の姿はとても凛々しく、輝いて見える。


「それで私の事好きになったら、告白してくれるの待ってる、もちろん他の人を好きになっちゃった時は、私の負けだね」


 お互い昔はクソがつく程のガキンチョだったのに、人間としての差がこんなにも開いている。

 少しだけ大人に成長した涼夏と、あの頃のまま成長をせず卑屈な俺、差を意識せざるを得ない。


「おう」

「えへへっ、いこ!」

と先に歩き出した涼夏を追いかけるようにして再び歩き出す。


「おはよー涼夏ー!」


 幼なじみを呼ぶ女の声がした。右手にある道の向こうから女生徒が駆け寄ってくる。


 身長が高くて、髪も長く、ポニーテールにしてある。


「おはよう美鈴みすず今日も元気だね!」

 なるほど、涼夏の友達か。

 昔は人見知りで俺以外友達が居なかったのに、感動的だ。


「涼夏こそご機嫌じゃーん!いいことあった?」


「えへへーっ内緒!それより美鈴、紹介するね!幼馴染の春日悠太くん!今日から私達の学校に来るんだよ!」


 涼夏に美鈴と呼ばれた、友達の視線がこちらに移る。

「あ、佐々木美鈴ですー、へぇー!くん……?女の子じゃないの…...?」

 頭にハテナを浮かべている。悠太ちゃんじゃないよ?俺、男だよ。


「どうも。春日悠太だ、髪は長いけど男だよ」


「ほえー!凄いね!天然の男の娘って奴だね!」


 ニコニコしているが、涼夏からは見えない角度で、一瞬鋭い目つきで睨んできた。

 山本さんとは違う、あれは敵意を向ける目線だ。この短時間で、俺なんかした?


「いや、女装趣味とかでは無いんだ…色々事情があってな…」

 朝から幼馴染の部屋で女物の制服を当てて鏡を見てたのはきっと夢だ。


「そうだよー!こう見えて悠くんはかっこいいのです!」


 かっこいいなんてことは微塵もないのだが。

 また一瞬憎悪の目を向けられた…...マジで嫌われたのか?


「へぇー!朝から妬けちゃうなー!」


 気のせいか?話し方からは一切敵意を感じられない。

でも確かに先程から向けられた一瞬の視線は敵意だった気がするんだが……俺が卑屈なだけかな。


「えへへ、大事な幼馴染なんだ、だから美鈴も仲良くしてあげてね!」

「そう言うことなら仲良くしましょ!春日くん!」


手を差し出され握手を求められた。まあ、涼夏といるなら必然的に絡むことになるだろう。

断る理由も無いので握手に応じるため、こちらも手を差し出す。

「……っ」


 万力で締め付けられるかのような激痛が俺の手を襲う。

涼夏の手前、顔に出す訳にもいかず、我慢していると5秒ほどで解放された。

この女…...間違いねえ、理由は知らないが、俺を敵に見てやがる。


「ごめん!力加減間違えちゃったかも!」

 間違えた程度でこの痛みなら、こいつはゴリラだ。


「いや、大丈夫だ、気にするな」


「嬉しいなー、悠くんにも友達ができてっ」


 呑気な涼夏は首を左右に揺らし、ルンルンだ。ここでも察しの良さを発揮してほしかったぜ…...。


 そうこうしてるうちに学校が見えてきた。結構な数の生徒たちが登校している。

 俺たちは校門をくぐり、佐々木美鈴とはそこで別れた。


 転校初日だから職員室に行くためだ。

 あの女、別れたところで振り向いてみたら遠くで俺に向けて中指を立てていた。

 なんでそんなに敵視されてるか分からない。涼夏がいない時に理由を聞いてみるか。


 涼夏に連れられて職員室の扉の前までやってきた。

 ノックをしてから職員室に入る。


「おはよーございます!立花先生ー!転校生を連れてきましたー!」


 職員室内に涼夏の元気な声が響き渡り、数秒すると1人の男性教師が気怠そうに立ち上がった。

 男性教師はふらふらとした足取りでこちらに向かってくる。

 髪はボサボサで顔はやつれているが、雪兄に負けず劣らず野暮ったい前髪の奥にある顔はイケメンだ。


「おー麻波ー、悪いが俺は二日酔いなんだ…もう少しお静かに頼む…」

 なるほど、残念イケメンってやつか。


「えー、またですかー?お酒は飲んでも飲まれるなですよ」

「まあまあ…...男って聞いてたけど美少女じゃねえか!」


 俺を見て目の色を変え、髪を整えるクソ教師、第一印象は、最悪だ。

「やぁ、お嬢さん、今日から貴女の担任として手取り足取り指導させていただくことになった、立花真咲たちばなまさきだ、どうぞよろしく」


 白い歯を見せ、微笑みを向けてくる様は昭和の俳優のようだ。

 この際勘違いされたことは置いといて、この変わり様、殴ってもいいか?


「悠くーん!学校で、しかも職員室で暴力は駄目だよー!」


 涼夏に釘を刺された。俺の殺気に気づいたか?

 目の前の男の所業はいつもの事なのだろう、周りの教師は一切反応しない。


「先生!悠くんはこんな見た目だけど男の子です!」

「なんだ、野郎なのか、気合入れて損した、んじゃホームルーム行くぞー」


このクソ教師、一切の興味を失いやがった。

「待ってください、校則の説明とか」


「そんなもん、ほれ、これやるから読め」

と生徒手帳を投げて渡してきた。心の底からムカつく。

 だがここは我慢だ。

 ここで暴力沙汰なんか起こしたら、せっかく姉ちゃんと蓮さんから貰ったチャンスを不意にすることになる。

 ちくしょう、佐々木といい立花といい、踏んだり蹴ったりだ。


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