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72頁



伏見さんは多分沙織さんが席につかないから立ったままなのはわかる。じゃあ他の3人は?

店員さんもなかなか座らない俺たちを黙って見つめている。


馬鹿馬鹿しい。先に座るか。

足を一歩踏み出すが、麗奈によって引き戻された。

「これは〜じゃんけんですねぇ」

沙織さんの提案に2人がコクリと頷き、手をグーにして突き出した。

「最初はぐー」

『ぱー……どやっ』


「なん……だと……」

恐ろしい者を見るような目で麗奈を見る沙織さん、額にはじんわりと汗が滲んでいる。

私の勝ちだ、と強かにドヤ顔をして俺の手を引くと麗奈は先に席についた。

「残る席は一つ……沙織さん、いざ尋常に……」

「じゃーんけーん、ぽん!」

沙織さんはグー、涼夏もグー。あいこだ。

それから2回、3回と差し合いを続けるもあいこが続き一向に勝者が決まる様子がない。

「すごい反射神経ですねぇ〜弾丸すら避けれちゃいそうですぅ」

「沙織さんこそ、私の0.05秒の後出しに合わせるなんて人間離れしすぎですよ!」


運任せの筈のジャンケンに実力を持ち込んで反射神経で勝負するなんて、普通の人間のやることじゃない。


「悠太さん、お隣失礼致しやす」

まあ、そうなるよな。この場に男は俺か伏見さんしかいない。

このじゃんけんでどちらかが、俺の隣になると言うことは、伏見さんの隣にもどちらかが座る事になる。

沙織さんならまだしも、涼夏の隣に座るのは気が引けたのだろう。屈強な見た目通り硬派な男なんだな。

愛する奥さんとかいるのかな。


「悠太さん、マジで良い匂いしますね。本当に男なんですか?」


すんすんと鼻をヒクヒクさせて俺の匂いを嗅いでいる。

前言撤回。身の危険を感じた。

麗奈の方に身を寄せると伏見さんも寄ってくる。

『こっちに寄ってきてどうしたの?』

「助けてくれ麗奈、この人怖い」


「安心してくれ悠太さん、俺はゲイでは無い」

「さっきの発言を聞いてどこに安心出来るんすか」

「俺はゲイではなく。悠太さんの男気に惚れただけです。願わくば弟子にしていただきたい」


「やっぱわかります!?俺が滲み出るこの男気が!!!」


ヤクザであり屈強な男である伏見さんの口から出た『男気』という言葉は、最近男としての自信を失いかけていた俺を奮い立たせるには充分だった。


「口は悪くても誰よりも優しいですからね、悠太さんは。他人の為に全力を尽くせる男。これを男気と呼ばずなんと呼ぶ!!!」

言葉の最後に、テーブルにダン!と手をついて、興奮気味に語った。


「それより何より見た目が可愛い!」


「待てコラ。もっぺんいってみろ」

「見た目が可愛いと言いましたが、ご不満でしたか?悠太さん」


「おい涼夏、このおっさんと席変わってくれ」

「待ってーまだ沙織さんとの勝負が……って伏見さんが座ってる!!ズルい!」

ようやく気づいたのか。2人ともジャンケンに白熱しすぎだ。

「伏見、立ちなさい」

底冷えのする声、冷たい視線、で上着の中へと手を突っ込んだ。


「早朝のファミレスで何やらかそうとしてるんだ!」

沙織さんを見たまま固まった伏見さんを押し退け、沙織さんの腕を掴んで止める。


「いやですね〜、ハンカチを出そうとしただけですよ〜」

ヘラヘラとした態度でかわす。

「そ、そうか」

手を離すと、言葉の通りハンカチを取り出して、丁寧に折り畳むと、手に巻きつけた。

おはじきじゃなければいいとは言っていない。


「落ち着いて、もう座れ。涼夏と一緒に。朝から血は見たくない」

命令口調で対面の席を指さす。

「うおわ!」

が聞かず、沙織さんは伏見さんをファミレスの床に引き倒すと足で踏みつけ始めた。

容赦なく。げしげしと。地味に涼夏も踏んでいる。


「もうしわけ!ぐっほ!ありま!!!ぶっへぇ!」

「これは教育よ。伏見。あなたはあっちの2人がけの席で食べなさい」



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