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麻波さんちで朝飯をいただいた後4人でお茶を飲んでいると、突然蓮さんがこんな事を言い放った。
「悠太くん、今日から学校生活楽しんでね〜!」
このお方はなにを言ってるんだ…?
昨日越して来たばかりだから、カバンどころか制服すら持ってないし、通う為の試験すら受けてねえ。
でも、嘘を嫌いな蓮さんが、くだらない冗談みたいな嘘を着いてるのを見たことは無い。
「いや、試験とか制服とか」
「それなら問題ないわよ〜」
なんだ?金でも積んだのか?
「ふっふっふ、悠太くんの中学校時代のテストの点数と通っていた学校の名前を告げたら余裕だったわ〜」
元々俺は勉強が得意な方ではないし、学校にもほとんど行ったことがない。
では何故テストの点数だけは良かったか、理由は葉月姉ちゃんにある。
葉月姉ちゃんも菜月姉ちゃん同様に弟の俺にはベタ甘だったが、教えは厳しかった。
葉月姉ちゃんが亡くなった後も俺は、葉月姉ちゃんの教えを守り、勉強だけはやめなかった。
だからテストの点数だけはよかった。
「それでも普通は通らないだろ」
「普通はね、でもほら私理事長と仲良いから、てへ」
と舌を出して可愛子ぶる幼馴染の母だが、幼馴染の姉と言われても差し支えないくらいなので、可愛い。
違う違う、そうじゃない。
「結局裏口みたいなもんじゃねえか……でも制服がないだろ?」
「それなら問題ないわよ悠太くん」
まさかとは思うけど……。
「涼夏のがあるじゃない」
やっぱりか。
「女子生徒用じゃねえか、俺は絶対に着ないぞ」
この髪型に姉ちゃんに似て中性的な顔立ちだ、より姉ちゃんに近づくだろう、でも流石絶対に嫌だ。
山本さんが喜びそうだけど、断固拒否させて貰う。
「いいね!悠くん!着てくれるなら喜んで私のあげるよ!持ってこようか?」
「それ着て身長伸ばしたら完璧に葉月ちゃんだね…ふふ」
と今まで会話に割り込まず良い子にしていた2人が割り込んできた。
「持ってこなくて良い!俺は男だ!」
流石に、声を荒げて抗議する。
「ほら、でも今は男の子でもスカート履いたりするんでしょう?ツイッターで見かけたわよ〜、悠太くんみたいに可愛かったわ〜」
「蓮さん…その人たちはコスプレだ!何がなんでも着ない!それ着るくらいなら学校行かない!」
「可愛いと思うのに残念ね、まあ本当は用意してあるけどね〜はい」
と新品のビニールに包まれた男性用の制服を手渡されたが、新たな疑問が浮かぶ。
「ん?採寸とかしてないのになんで?一昨日こっちにきたばかりだぞ?」
どうやら確信に迫ったみたいだ。みんなの表情が固くなる。
「あー…察しが良すぎるわね」
蓮さんの話し方が急に真剣になった。
この人達は朝食後には必ず真剣な話をしないと気が済まないのだろうか。
何?なんか聞いちゃいけないこと聞いた?
「気づいてしまったからには私から説明するわ、実はね、悠太…」
姉ちゃんが言いづらそうに溜める。
涼夏なんて下を向いている。
そんな深刻な理由なのか…?
「私達が追いだされたのは、私がそうなるように仕向けたの、てへ」
蓮さんと同じように舌を出して可愛子ぶる姉……。
「は?」
「だから、元々こっちに来るのは私が計画を立てて、蓮さんに相談してあって、決行日にわざと父さんを怒らせて追いだされたの」
一昨日車で責任を感じてたんだが?泣いたんだが?
「へ?」
「元々成人して少ししたらあの家を出ようと思ってたんだけどね、どうせなら悠太も連れて行きたかったから巻き込んだのよ」
「お、おう」
「ごめんなさい、怒ってもいいよ。でも私は悠太と一緒にいたかった」
「別に怒らねえよ、感謝しても仕切れないくらいだ」
実際あの家に居たら姉ちゃんは親父に潰されていただろうし、俺も素行不良で逮捕されていたかもしれない。
「ふふ、それにね、私は、ここなら悠太も、また前を向けるんじゃないかなって思ったの」
実の所姉ちゃんの行動は正解だ。
変わりたいと思えたから。
「だから、悠太も喧嘩なんて絶対にしちゃダメだよ」
昨日1人再起不能にしたのは黙っておこう。
涼夏にアイコンタクトを取ると涼夏も頷いている。