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冷えたペットボトルを熱を持った額に当てると少し染みるが痛気持ちいい。

「先に2人で店内に入って見ててくれ。回復したら行くから」

「わかったわ。時間も過ぎちゃうし、じゃあ麗奈さん行きましょ」

『うん(*'▽'*)』


今度は素直に2人とも離れ、店へと入っていった。

それを見送り、デパートの柱に体を預ける。


唯も面倒見が良い方だが、美鈴も面倒見が良い。

減らず口を叩きつつも心配してくれる様子を見せている。

2人とも姉御肌というかなんというか、まあ美鈴の方は涼夏が絡むと暴走するのが玉に瑕だ。

唯と美鈴は昔からの付き合いって言ってたから類は友を呼ぶ、じゃないけど面倒見が良い同士気があったのだろう。

などと気を紛らわせながら、脳の回復を待つのだった。



「さてそろそろいくか」

15分ほど休んだだろうか。膝の震えも額の痛みも引いてきた。思い切って一歩踏み出してみる。平気そうだ。

店の入り口を潜るとあるものが目に入った。

猫と犬の絵で装飾されたフォトフレームを手に取って眺める、なんだか麗奈と涼夏を彷彿とさせるな、これ。


そう言えばこっちに来てから、まだ写真とか撮ったことないし。みんなで写真を撮るのも良いかもしれない。

「何見てるの?フォトフレームかー、悠太くんはこっちのうさぎがプリントされたやつが似合いそうね」

いつの間にか2人に見られていた。恥ずかしい……。


寂しくなると死んじゃいます、てか?やかましい。あれはドラマのセリフから有名になっただけで実際死ぬ事はない。ただの都市伝説だ。

だから無理をして多頭飼いする必要もない。

ていうか、うさぎだと可愛いイメージばかり先行するからどうせならライオンとか虎にして欲しい。

「もっとカッコいい動物にしてくれよ」

「んー、うさぎがぴったりだと思うけど、可愛いし、甘え上手だし」

「……俺が甘え上手?」

「ええ、さっきも麗奈さんに寄りかかって甘えてたじゃない」

「あれは脳震盪だから仕方ない」

「そうじゃなくても3人で腕組んで歩いたのだって振り切れたのにそうはしなかったでしょ?」

『悠太は末っ子だからね(*゜▽゜*)無意識に甘え上手なのかもっ(*´꒳`*)』


2人の姉に甘やかされて育ったからそう言われると納得できる。ただ同級生に甘え上手と比喩されるのはいかんせん首を縦に振る事を憚られる。


「それで、そのフォトフレーム買うの?」

「あぁ、みんなで写真撮って飾ろうかと思ってな。猫と犬って涼夏と麗奈のイメージにぴったりじゃないか?」

『どっちが猫でどっちが犬なの?(*゜▽゜*)』


「麗奈が犬で涼夏が猫」

俺が言うと美鈴が素っ頓狂な表情でこちらを見ている。え?俺変なこと言った?

「悠太くん、目が腐ってる?」

失礼な奴だ。素直に言うのは恥ずかしいが、こいつにはわからせてやらないと気が済まん。これだけは譲れない。

「麗奈はずっと俺の隣に寄り添ってくれるから犬。涼夏は大事な時に現れて励ましてくれるから猫だろ?」

「麗奈さんは猫でしょ!顔立ち、凛とした佇まい、クールな雰囲気。どれを取っても猫よ猫!逆に涼夏はひっじょーに可愛らしくてキュートで!いつもヘラヘラしててお菓子をあげると馬鹿な犬みたいに尻尾振って喜んで!堪らないわ涼夏!!!!!!結婚しましょう!!!」


こ、こいつ本当に涼夏のこと好きなんだよな……?ヘラヘラって決していい意味で使われるものじゃ無いはずなんだけど、しかも馬鹿な犬って……。


『ねえ、美鈴ちゃんて……』

麗奈がスマホを俺にだけ見えるように構えた。

きっとこいつの愛とは相当拗れた歪んだものなのだろう。愛の形は自由だ、そっとしておいてあげよう。

なので麗奈の問いかけに俺はそっと首を横に振って答えた。


別に美鈴をハブにするわけではないが、やはり身内と外側では見え方が違うんだな。

涼夏が犬だってのは確かに否定はできないが、やはり俺の中ではどちらかというと猫寄りに見えてしまう。

麗奈もそう、俺の中では犬だ。


それより、店内でこれだけ騒ぐ美鈴を放っておけないな。店員さんも、お客さんもみんな美鈴を見ている。


他人のフリしよ。麗奈の手を引いて少し離れたが、美鈴は気づいてないようで涼夏への愛を叫び続けている。

恋は盲目とはよく言ったものだな。

「麗奈、美鈴のプレゼントは決まったのか?」

こくりと麗奈が頷いた。ならしばらくあのままそっとしておいても問題はないな。うん。


「じゃあ、これ買うかな。持ってきちゃったし」

『わん!(ᐡ •͈ ·̫ •͈ ᐡ)』

……なん……だと?

『目が血走ってるよ。変だった?』

「そんなわけあるか。やはりお前がナンバーワンだ、麗奈。わんちゃんだけに」


麗奈が一歩下がった。口を半開きにして俺を見ている。

『こんな時……どんな顔したら良いかわからないの……』


「笑えよ!!!!」

麗奈に意地悪をされ、恥ずかしくなった俺は、フォトフレームを持ってレジへと向かうのであった。

大丈夫、俺が一回大声を上げたところで店内の注意がこちらに向くことはない。


未だ涼夏への愛を叫び続ける馬鹿丸出しの美鈴が店内の中心にいるから。

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