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再び洗面台の前に立ち、クレンジングウォーターをコットンに馴染ませ、一度汚れた化粧を手慣れた手つきで落としていく。

そもそも麗奈って普段化粧とかしてるイメージは無いが、何故うまいのだろうか。


「麗奈って自分は化粧しないよな」

『面倒くさいからね。でも君は別。可愛いから特別』

今時女子には見えない発言。まあ、オシャレにも興味なし、恋愛沙汰にも興味は無さそう。唯一当てはまるのはスマホに、タイピングするスピードが尋常じゃ無いところだけど、それはコミュニケーションツールがスマホか筆談しか無いから、ギリギリ当てはまらない。

きっと化粧が上手いのは元より手先が器用なんだろう。


「特別ねえ……女装して出歩くのなんかもうこれっきりにするけどな。恥ずかしいわ」

そう!脅されたから!無理やり!仕方なく!これを着て外に出るだけだ。

つまり今回だけ!もう次はない!メイクが進んで先程通り可愛くなっていく自分の顔を見ながら思った。


『えーっ』

なんだその反応、俺が好き好んで女装しているとでも思っているのか。


「そんな反応してもしないからな」


『する!』


「しないって言っとる」


『しないなら……どうしよっか』

思わぬ返しに思わずずっこけてしまった。なんで否定側の俺に聞くんだよ、折角塗ったリップもはみ出て口裂け女みたいになってしまった。

「ちくしょうまたやり直しかー!」

『修正するから大丈夫だよ(*´꒳`*)動かないで』

「お、おう」

コットンに何かしらの液体をつけ、はみ出た部分を拭っていく。

するとあら不思議、お化粧の完成だ。

まるで魔法みたいだな。


『こんな可愛いんだから、たまにはお姉さんとお出掛けする時もやろうよ(´∀`*)』


「嫌だよ。家の中がギリギリ。外はやだ」


『家の中だったらお化粧させてくれる?(*´꒳`*)』

唯を連れて来たあの日以来偶に姉ちゃんの要望で女装してるし、家の中だったらいいか。


「あー……いいぞ。それくらいなら」


『やった!!じゃあお家の中限定で可愛い君の姿が見れるね(≧∀≦)』

「すげえ嬉しそうだな。そんなに俺の女装姿が好きか?」

『うん!勿論普段から可愛いけど。だって君、お化粧してる時、くすぐったそうにしてるのとか、出来上がった後の完全に女の子にしか見えない姿を見ると……性転換させてるようでお姉さん興奮しちゃう(//∇//)』


あらやだ、随分と歪んだ性癖だこと。

こちとら男の尊厳を奪い去られてると言うのに、文句を言う気に為らないのは、トイレの監視や、普段から俺の恥ずかしがる事を進んでしてくる、麗奈への慣れと諦めから来るものだろう。


どうせ、約束を逆手に俺を言いくるめにくるのだ。

麗奈が喜ぶならと諦めてやるしかない。

「程々にな、他の奴にそんな性癖出すなよ?」

と軽く諫めてやる程度だ。


『他の男の人なんか怖くて近寄れないし。お姉さんが悪戯するのなんて君だけだよ。小さいし可愛いし』

「ばっか、俺はこれから身長も伸びる!!175くらいの高身長になって顔も雪兄みたいにイケメンになる筈だ!」


俺の第二成長期は何処へ…?強いて言うなら中学生になった頃から全く伸びていない身長が恨めしい。

『大きくなっても、顔がイケメンになっても君は君だよ?』


こう言うとこ、ずるいんだよなぁ。全く。

「そりゃどうも、財布とかとってくるな」

一言だけ返して、麗奈を置き去りに洗面所を立ち去り、二階の自室に入ると鍵を閉める。


恥ずかしいったらありゃしない。

確かにこれ以上成長してしまったら見向きもしてくれなくなる、むしろ怖がられるんじゃないかと、心の奥底では思わないこともない!

でもあれを言われてしまったら何も言えない。嬉しくなってしまった自分が、チョロいのかと思ってしまった。


いや、確実にちょろいよな。



――――――――――――――


「由奈ちゃんおはよう!………………ってええええ!写真で見るよりずっと可愛いわね!!!!!麗奈先輩もお揃!?姉妹みたい……これは尊い。ああ……2人が尊過ぎて灰になりそう」


玄関の扉を開けるなり、口に手を当て感極まった様子の美鈴、なんだこの不審者。ハイになってやがる。

そもそも由奈という呼び名をこいつに教えた覚えはない。


「おい、玄関先で大きい声を出すんじゃない。ご近所さんに変な目で見られるじゃねえか」

「由奈ちゃん言葉遣いが乱暴よ!もっと可愛く話さないと!」


てめぇ……。

「美鈴ちゃん?お出かけの前に少しうちに上がっていく……?」

顔の前で手を合わせ、軽く首をかしげ、上目遣い気味。涼夏が何かして欲しいときによくやるお願いの方法だ。

俺はこのお願いに幾度となく付き合わされた。仕方ないじゃん。可愛いんだから。

「ぶっは!!!食べちゃってもいい!?答えは聞かないわよ!いっただきまぁす!!!」


2メートル先からこちらに向かってダイブをかまして来た不審者に玄関扉の味を教えてやった。

鈍い音がしたけど平気だろうか。扉、凹んでないよな?


「痛いじゃないの!?か弱い女の子にそんな事するなんて酷いわよ!」

地面に伏せたまま、頭を抑えつつ顔だけあげた美鈴が恨めしそうに声を上げた。

酷いのはどっちだよ、お前は涼夏一筋じゃなかったのかよ。


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