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「悠太?罰の意味わかってる?」
姉ちゃんの握る箸がミシミシと音を立てて軋んでいる。
…………怖いよぅ。
「まぁまぁ菜月、悠太には俺から説教しておくから、今日のところは俺に免じて……」
女性陣の忍び寄る魔の手からなんとか俺を救い出そうとする雪兄の目の前に麗奈のスマホが差し出される。
『悠太には反省が足りない。お姉ちゃんの罰ゲームを受けるべき』
この裏切り者が、私利私欲に走りやがった。
どうせこいつの頭の中で考えていることなんて、悠太が裸で恥ずかしがってる、可愛い、興奮する。くらいな邪な考えだ。
俺が裸ならお前も裸だぞ。そこんとこわかってるのか?
「いいや、悠太は俺と風呂に入って、背中を流し合って男の付き合いをするんだ。そこで説教をして、反省もしてもらう」
ん?話の方向性がおかしくなってないか?おい涼夏、お前は顔を伏せて笑ってないで助けろ。
「雪人くんは悠太に甘いからダメでーす」
「菜月の方が甘々じゃねーか。なんだ一緒にお風呂って。罰にもなってないだろうが。ただただ悠太が可哀想なだけだ」
おお、珍しく雪兄がいいこと言った。姉ちゃんが顔を顰めて口を結んだ、いいぞ雪兄、そのまま押せ。
『悠太、約束。このままだと雪人さんと悠太、私の3人でお風呂になるけど』
「雪兄。すまん……俺罰受けるよ」
普段から麗奈が俺と風呂に入ってる訳では無い。
ただそれでも、約束を盾にそう申し出てくるなら俺は逆らえない……。
「なっ……悠太……」
雪兄が悲しそうに項垂れ、悔しげに拳を握った。
「俺は約束には勝てないんだ……すまない」
「ちくしょう……また守れなかった……俺に何が足りないって言うんだ……!」
「雪人くんには何が足りないって言うか、ナニがついてるから?」
食事中にナニとか言うんじゃねえよはしたない。それで言うなら俺もついてるわ。
「わ、私も良いですか!?」
えらく興奮した様子の神田さんが、バン!と机を叩いて力強く立ち上がった。
「そうだね、みよちゃんも悠太に変な事をしようとした罰を受けないとね」
「菜月さん……!」
見つめ合い。手を握りあう2人。
おいおいおいおい、山本さんと違ってそいつはガチもんだぞ。
俺どころか涼夏達の貞操まで危ぶまれる。
考えろ、機転を利かせろ。
ふと、姉ちゃんの麦茶が入っていたコップと麦茶を入れていた空のポットがが目に入った。これだ。
「涼夏」
出来るだけ姉ちゃんに聞こえないよう、涼夏に耳打ちをする。
「なぁに?」
「このままだとお前の貞操も危うい。止める為に、協力しろ」
涼夏が頷く。
「いいか?俺が麦茶に焼酎を混ぜたものを作ってくる。それを姉ちゃんのコップに注げ。さっきの要領で頼む」
「わかったよ」
「新しい麦茶出してくるわ、雪兄も焼酎作ってこようか?」
「お、悪いな!はっはっは!いい弟を持って俺は幸せだ!」
自然な流れで立ち上がり、空のポットと雪兄のグラスを持ってキッチンへと移動。冷蔵庫から新しい麦茶を取り出し、焼酎のキャップを開けてほんの少量混ぜる。
ほんの少ししか入れていないので、匂いでバレる心配も無し。
次に焼酎を水割りで作り、ダイニングへと戻った。
「はい雪兄」
「ありがとな!んじゃ早速。かーーーーーっ!美味いぞ悠太!!」
雪兄にグラスを渡して席に着く。
「ん、涼夏。姉ちゃんのコップが空だぞ?」
「あ、ほんとだ。なっちゃーん。お注ぎしますよ」
「おっわるいねえっ」
「えへへっ、さあぐいっと」
先程と全く同じ流れで涼夏が麦茶を注ぐ、後はこれを飲めば、やつは
「んぐっんぐっ……………………」
コップをテーブルに置き、そのままバタン!と机に倒れるようにして眠った。顔は食べかけのチャーハンにめり込んでいる。
ごめんな雪兄、ちゃんと責任とって俺が食べるから許せ。
「悠太くん、盛ったわね〜?」
「うん、これで朝起きたら今日起きたことの全てを忘れてくれる。意味のわからん罰も無しだ」
姉ちゃんをテーブルから起こす。うわぁチャーハンの油で顔がテッカテカだ。
テーブル用の台拭きを手に取って、乱暴にこすり落とす。
「今日の大事な商談のことも忘れてないといいけどぉ」
「それは保証できないな……んじゃあ、俺は姉ちゃんを寝室に運んでくる」
姉ちゃんを肩に背負ってリビングを後にした。随分軽いな、仕事中とかちゃんと飯食ってるのかな。




