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「それで?話ってなんです?おっと、それ以上近づかないでくださいね」
あのまま、店内に団体で居座るのは、メンツ的にも迷惑がかかる、店員さんに、目をつけるられると判断した俺たちは変態の奢りでアイスを買ってもらうと、店員さん監視のもと、そそくさと店を出た。
そんなわけで今俺たちは変態を連れて近所の広場へとやってきた。
麗奈と涼夏の2人は3段アイスに夢中、美鈴はアイスに夢中な涼夏に夢中で役に立たないので、琥珀さんが俺の隣に立って、変態と対峙している。
「その、怖がらせちゃってごめんなさい。好みの子を見つけると自制が効かなくて……」
それはもう、颯爽逮捕されていないのが奇跡なのでは?
「わかる、少年は可愛いからな」
うんうん、と腕組みしながら頷く琥珀さん。あれ?貴女こちら側の人間ですよね?何変態に共感してるの?
ほら、琥珀さんの態度に変態も息を吹き返しそうになってるし。
「だよね!ゲーセンで私も見つめる熱い視線を感じて……気持ち悪い男だったら文句を言ってやろうと振り向いたら……その子がいたのよ、見慣れたゲーセンの古びたベンチにちょこんと座ってこちらを見る金髪の女の子、君の居るところだけ輝いて見えたわ」
うわー聞いてもない事をペラペラペラペラと語り始めたよ。
琥珀さんも相槌なんかをうちながら、興味津々といったご様子。
「わかるぞ、私は変態ではないから行動には移さなかったけど、麗奈の部屋で初めて少年を見た時は葉月さんを思い出して心が踊ったものだ」
琥珀さんは遠くを見てそう言った。
その心躍るって闘争心の事ではないよな、なまじっか実力知ってるだけ怖いんだけど。
そうだ、折角本人が蒸し返してくれたんだ。あの時気になったことでも聞いておくか。
「その割には反応しなかったっすよね、あの時」
「あぁ、葉月さんと少年が道場で仲良かったの見てたからな。不用意に口に出して君が傷つくんじゃないかと思ってな」
「気を遣ってくれたんすね、ありがとうございます」
「まあでも、私を見ても思い出さなかったのは少し傷付いたな。すぐ気づくと思ったんだけどね」
琥珀さんが拗ねるように口を尖らせた。
「いやー、あの時とは全然姿が違うと言うか。綺麗になってたんで気づかなかったっす」
「っな!また君はそうやって!!」
ハッ!また怒らせてしまった……。今日こそ血祭りにあげられてしまうのか?血の気が引いてきた。
「あのぅ、私のはなしぃ……」
「あ、ああ!少年聞いてやってくれ!」
変態がおずおずと手を上げて自身の存在を証明してたことで、顔を真っ赤に染めた琥珀さんが話の主導権を変態に渡した。
俺に仇をなそうとした変態であることは間違いけど琥珀さんの気が逸れた、ナイスタイミングだ。
「えっと、君にトラウマがあるって知らなかったとは言え、しつこくしちゃってごめんなさい」
「まあ、謝罪の気持ちは受け取っておきます」
受け取るだけで許すとは言っていない。油断させておいて気を許したら襲われる可能性が0では無いからだ。
現状で味方であるはずの涼夏達はアイスに釘付けで、琥珀さんも、変態に主導権を渡してからもじもじとして俯いてたまま、ぶつぶつと何かを呟いている。
つまり護衛0で目の前の変態と対峙しているのだ。
相手が生物学上、女性でなければ容赦無く拳を叩き込めるんだけどな。
「許してはくれないのね。そうよね……私も貴方と同じ立場だからわかるもの、許せないわ」
「どういうことですか?」
「私、この通り女の子が好き、なんだけど会社の社長に、その……いえ、貴方に話すことじゃないわ。兎に角ごめんなさい。もう現れないようにするから」
憂げな表情を浮かべた後、深く頭を下げ、立ち去ろうと踵を返す変態。
その手を無意識に掴んで引き留めてしまった、ちくしょう、姉ちゃんの教えが働いてしまった。それを置いといても女性にそんな悲しそうな顔をされたらほっとけない。
「待て、俺でよければ話を聞かせてくれ。何かできる事があるかも知れない」
「優しいのね。でもできることは無いわ。相手は大手企業の社長だもの」
この言葉、最近で聞くの2回目だ。大手企業の社長だったら弱者に何しても許されるのかよ、ふざけやがって。悔しさともどかしさにぎりっと歯を噛み締める。
「それでもだ。話してくれないか?」
「貴方がそこまで言うならいいわよ。長くなるけどいい?」
「ああ」