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麗奈が手渡した水の蓋を開け、半分ほどガブガブと飲み干し、口からペットボトルを離したかと思うと、服の袖で口の端に垂れた水を拭った。これから何が始まるんだ……。
「悠くんはここで美鈴とアイス食べてて、すぐ終わらせてくるから」
『近所に琥珀もいるって、呼ぼう』
「そうだね、麗奈さん。徹底的にやっつけよ」
そう言って2人して店外へと出て行った。
追いかけたほうがいいよな、だがそこで未だにへばっている美鈴を置いていくわけにも行かない。
「ゆ、悠太くん……水……」
「美鈴、遅くなって悪いな」
ワナワナと震える手を伸ばす美鈴にペットボトルを開け、直接口に運んでやり水を飲ませてやると、抵抗する気力も無いのか、素直に受け入れた。
「ぷはっ生き返ったわ。行ってくるわね悠太くん。変態を蹴散らしてくるわ」
「待て待て、お前今までへばってたのに平気かよ」
「涼夏が戦ってるのよ!私が行かないはず無いじゃない!」
「おいまっ」
俺の静止も聞かず。店を飛び出して行きやがった…。
店内には俺と店員さんの2人、なんとも気まずい雰囲気が流れる。
いや、気まずいと思っているのは俺だけかも知れない、そう思って店員さんの方を見てみると、張り付けた笑顔の瞳に、お前、買うよな?買うんだよな、この期に及んで涼みに来ただけじゃないよな?と怒気を込めた目でこちらを見ていた。
「えと……あの」
不良と呼ばれ、喧嘩に明け暮れていた春日悠太はもういない。バイト店員さんの圧に完全に押され、しどろもどろになってしまった。
「いらっしゃいませー。ご注文は何にしますかっ!?」
「……チョコミントお願いします」
「おひとつですか!?」
なんだろう。きっと他意はない筈なのに、言葉の裏に、これだけ時間をかけて一つだけか?と聞かれてるような気がする。
「えっと……オレンジを一つ」
「お二つですか!?」
ニコニコニコニコニコニコニコニコ。だがまだ目が笑っていない。あいつら戻ってきたらたんと注文するから許してくれないかな……。
「じゃあ、ポッピングシャワー」
「はいっ。チョコミントとオレンジ、ポッピングシャワーの3段アイスでよろしいですか?」
「……はい」
どうやらこれでやっと許してもらえるみたいだ……変態も怖いけどこっちの店員さんも怖かった……。誰か1人俺と一緒に残ってくれよ。俺このアイス屋トラウマになりそうだよ。
「それではお会計の方が丁度千円になります!」
「ぴったしでお願いします」
3段アイスで千円か、コンビニなら4個くらいは買えるな……麗奈が3段、涼夏も勿論3段、美鈴が何段かわからないが3段だったとして、4人で4000円……麗奈、琥珀さんを呼ぶって言ってなかったっけ……?
そろそろ貯めたお年玉もやばくなってくる頃か…?
財布の中から千円札を取り出してキラキラと星やハートの可愛らしい装飾を施された会計皿に乗せる。
「千円丁度いただきます、少々お待ちくださいねっ」
店員さんがコーンを取り出してアイスに乗せるのを眺めつつ落ち着かないので窓の外をチラチラと確認する。幼馴染とその仲間達の姿はない。
「はい、お待たせしましたー!落とさないように気をつけてお持ちくださいっ」
「ども」
店員さんからアイスを受け取り、イートインスペースの椅子に腰掛け、アイスを一口齧る。口の中で飴がパチパチと弾けて丁度いい刺激だ。
まさかとは思うけど、あいつら負けてないよな。ゲーセンで見た限り、あの人の身体能力高そうだったし。
いかん、心配になってきたな。琥珀さんを呼んでいたとして到着までに時間がかかる。
見に行ってみるか。
店を出ようと折角座ったばかりの椅子から立ち上がった所だった。見慣れた顔の団体4人が店内へと入ってきた………………変態を連れて。つまり5人。
「悠くーん!変態さん討伐してきたよー!!」
そう店内で騒ぐ涼夏に店員さんの目が光る、ごめんなさい。後で絶対人数分買いますので許してください。ただし変態は除く。
涼夏が変態の首根っこを引っ捕まえて前に突き出す。
猫がネズミ、鳥、はたまたGを捕獲した時に飼い主に見せにくるというが、その類なのだろうか。
「お、おう。でも、拾ってきちゃダメだろうが、捨ててきなさい」
「まあまあ少年、この変態も謝りたいみたいなのよ、聞いてやっては貰えない?」
琥珀さんの言う通り、変態はシュンと項垂れて肩を落としている。
聞くくらいなら構わない。が相手がこちらの話を聞かないので怖いのだが。
「まあ、聞くくらいなら」
「その前に皆さん。いらっしゃいませー!」
ここはガキの遊び場じゃねえぞ。と言いたげな店員さん。仰る通りここはアイス屋だ。
「すみません店員さん、ここは私が出させてもらうわね……お詫びよ、好きなもの頼んで……」
変態の癖に常識はあるんだな。