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39頁


すっと俺達の間に麗奈が割って入った。


「うん!私達2人がいたら悠くん寂しくならないもんね!」

『それに、きっとお姉さんと君が一緒に居るように葉月お姉さんの側には真姫がいると思うよ、きっと』

何故この2人は、こんなにも俺の考えを読んで元気づけるのが上手いのか。

涼夏は四年の空白があるとは言え慣れ親しんだ幼馴染だからまだわかるが、麗奈はこの3ヶ月と言う短い期間で大分俺の事を把握されている気がする。

逆はどうなんだろうか、無表情で声を出せない表面とは違い心豊かな麗奈の事を俺はちゃんと理解してあげられているのだろうか。


「私も、涼夏が透明人間になったらずっと側にいるわよー!!」

「ぐへ!!」

「きゃーっ♪」

俺の上に乗っている涼夏に覆い被さるようにして勢いをつけた美鈴がくっついた。もちろん一番下にいる俺の腹から下は下半身には2人分の体重が乗っかるわけで……重い。


「あぁ、涼夏、いい匂いだわっ」

「やめてよ美鈴ぅ!くすぐったいよぅ!」

美鈴が涼夏の髪に鼻を当て匂いを嗅いでいる、わーきゃーと俺の上で繰り広げられる百合合戦。とてもいいです、続けてください。

足がミシミシと悲鳴をあげているのは気のせいだ。百合に犠牲はつきもの。気のせいじゃないじゃん、犠牲になってるじゃん。


『お姉さんもヾ(๑╹◡╹)ノ"』


麗奈が上体を起こしたままの俺の後ろに周ってしゃがむと、包み込むようにして抱き締めてきた。


なんだこれ、なんだこれ。傍目から見たら俺を含めて百合にしか見えないのでは?ちくしょう、由奈になってこないことが悔やまれ…いや、進んで女装しようだなんて俺は何を考えてるんだ。俺は男だ。


「そろそろどいてくれ。もう一回脚を折ったら俺は進級できなくなっちまう」

「あー!ごめんね!」「そ、そうね!悪かったわね!」


慌てて2人が俺の上から退いて立ち上がる。

涼夏は白、美鈴はピンク。何がとは言わない。


『お姉さんは上半身だから良いよね(´∀`)』

違う、そうじゃない。

「麗奈も終わりだ。アイス食べる時間なくなるぞ」


と俺が言うや否や、上半身を抱き締めたままヒョイっと持ち上げられて立たされた。

こんな細腕のどこにそんな力があるんだ……、身長が……低くて軽いって言っても男だぞ……。

「……ぁぃす、ぃお……!」


「麗奈さん待ってー!!」

「あ!待ってくださーい!!」

そして2人を置き去りに俺を抱えたまま走り出す麗奈。周りが見えなくなるほどアイスが好きだったのね。危ないから廊下は走っちゃいけません。

廊下を抜け、階段を降り、外に出て、校門を抜ける。

上履きのまま。

俺がこの状況で冷静になれるのは楽をさせて貰っているからなのか、はたまたもう、むちゃくちゃやるやつに慣れ始めたからなのか。




そんなわけでアイス屋に着いた。ここまで一切ペースを落とす事なく走ってきた麗奈の無表情な瞳の奥はキラキラと輝いていて、口角も心なしかあがっている、気がする。


「麗奈?平気なのか?」


息も正常、汗すらかいていない。運動は苦手と聞いていたはずなのだが……。


『3段アイス!いちご!ポッピングシャワー!いちご!』


どうやら、目の前のアイスのメニューが書いてある看板に興味を惹かれているようで話が通じない。

「いちごが被ってるから2段で良いんじゃねえの?」


「……しゃん!」


おお、いつもより掠れ声が大きい。毎日アイス屋に連れて行けば声が出るようになるんじゃないか?

とは言っても、涼夏と美鈴を置き去りにしてしまった上に鞄も教室に置き去り、財布を鞄に入れていたので金もない。

涼夏、持ってきてくれてねえかなぁ……!


幼馴染に期待を込め、念を送る。大丈夫、お前はできるやつだ。


「麗奈さん早いよー!」

「……ぜぇ、まっ……すず……おぇ」

噂をすればなんとやら、流石は涼夏、余裕の表情だ、勿論手には俺の鞄を持っている。

そしてその後ろを、女の子が出してはいけない汚い声を出しながら、美鈴が続く、体力を使い切ってへろへろだ。

無理も無い、今日の天気も晴天、ギラギラと降り注ぐ太陽の熱は、例年の6月の気温を上回っていて、体力を奪われる。

涼夏と麗奈がおかしいんだ。

「悠くんはいこれ、お財布この中でしょ」

「ありがとう。早速だが美鈴がキツそうだからさっさと飲み物とアイス買おうぜ。緊急事態だ」

「ここまでほぼ全速力だったもんね……美鈴大丈夫?」


心配そうに美鈴の顔を覗き込む涼夏から鞄を受け取り、財布を取り出す。

「ぜぇ、っはぁ……み……みず」

「ミミズ?私捕まえてくるね!!」

「こんな時にそんなボケはいらん、水買ってくるからさっさと店に入っとけ」


おふざけをぶち込む涼夏を軽く嗜め、恐らく空調が効いているであろう店内へ入るよう指示を出して後ろを振り向く。


「………………っはぁっ……はぁっ」

店の立て札を見つめていた筈の麗奈が、息を詰まらせてうずくまっているではないか。何事かと駆け寄る。


「どうした麗奈!!」

「……っはぁ」

『水』

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