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涼夏が去り、静寂に包まれた麻波家で1人俯く。
あいつは、落ちぶれた俺の事を今でも思ってくれてる。
涼夏だけじゃ無い。菜月姉ちゃんも雪兄も。
心を落ち着かせ、夕食を途中抜けしてしまった気まずさに耐えつつ自宅に戻った俺を待ち受けていた物は、蓮さんから話を聞いて面白がった大人達からの質問大会だった。
一連の質問は確実に俺と涼夏の精神をすり減らし、最後は爆発した涼夏によって強制的に解散させられた。
「ごめんって〜、怒らないでよ〜」
現在俺は寝室の鍵を閉めて引きこもっている。
寝室の扉をコンコンと叩きながら、姉ちゃんが声をかけてくるが、開ける気はない。
あれだけの責め苦を受けたんだ、簡単に許す訳がない。
「今日はリビングで寝たら?ソファーも大きいから、体も痛くはならないだろ」
冷たく突き放し、買ったばかりのベットに上がって布団を頭から被る。
それなりに値段が張る物を買ったからかとても暖かい。
「暖房も何もないからお姉ちゃん風邪ひいちゃうよー」
仕方ない。
寝室の扉を少し開け、何を勘違いしたか、笑顔を浮かべて早合点した姉に毛布を渡し、また鍵を閉める。
「そうじゃないー!ごめんー!」
ドンドンドン!先程より扉を叩く音が大きくなり声も大きくなった。やかましい姉だ。
それでも無視をしていると、諦めたのか、今はノックの音が止んでいる。
その頃にはとっくに俺の怒りも冷めていたが、気恥ずかしさもあって鍵を開けてやる気にはならない。
「ねえ、悠太」
扉の向こうで姉ちゃんが語りかけてくる。
「私はね、さっきも言ったけど、こっちに戻って来れてよかった」
姉ちゃんは今どんな表情をしているんだろう。
「家を出る時、無一文で先の不安があったけど…蓮さんがいてくれて、それも無くなった」
「涼夏や雪人くんがいて、ネガティブな気持ちさえもポジティブに変えてくれる」
「何より、愛する悠太がいるから、前も向いて頑張ろうと思える」
きっと、困ったように微笑んでいるんだろうな。
立ち上がり、答えを確認するように、扉を開ける。
「ふふ、開けてくれてありがとう」
ふにゃりとした笑顔を浮かべる姉に俺は照れ隠しのように
「うるせえ、明日から仕事なんだし、さっさと寝るぞ」
姉ちゃんに背を向け、ベットに潜る。
ばか姉、俺も愛してるし、ありがとうはこっちのセリフなんだよ…!
このセリフは、俺が変われた時に言うとしよう。
俺もこの先に不安はある…それでも今は流れされてでも、ここに居るしかない。
そう思うと、俺の心の中に四年間振り続けた雨は、小降りになった気がする。いや過言か。
「もう、大丈夫だからね……2人で幸せになろうね」
後ろから姉ちゃんに抱きしめられる。
その声を聞きながら、俺は眠りにつくのだった。