35頁
――――――――――――――――――
オマケ
横になって快晴の空を眺めている。空気もうまいし、とても心地の良い気分だ。
遠くの丘の上で赤い服を着た葉月姉ちゃんが手を振っている。もっと近くで顔を見てみたい、立ち上がり一歩一歩坂を登っていく。
距離的には数10メートル。走れば直ぐに届く距離だ。
「悠太ー早くおいでー」
姉ちゃんも、俺を呼んでいる。早くいくか。
全力で坂を駆け登る。20メートル、15メートル、どんどんと距離は縮まっていく。
10メートルくらいの距離に近づいた時。異変に気がついて足を止める。
赤い色だと思っていた姉ちゃんの服がどうやら所々白い、寧ろ赤の部分は、赤黒く変色している。
「悠太……痛いよお!いだいいだい痛いぃいい!」
先程とは打って変わって空がグレーな色に曇り。雨がポツポツと、降り始める。足を止めた俺に今度は姉ちゃんから近づいてくる。やめてくれ。そんな光景見せないでくれ!
ガタガタと誰かが意識の外から俺の肩を揺すっている。
「……………………っはぁ!はぁっ!」
どうやら最悪の悪夢を見ていたようだ。
眼前に麗奈の顔が、無表情で俺を見ている。
「…………はぁっ起こしてくれてありがとう」
呼吸の整わぬまま麗奈に、お礼を告げ、立ちあがる。
『トイレ……怖くて着いてきて貰おうと、思ったら魘されてたから……平気?』
心なしか恥ずかしそうに見える麗奈に思わず吹き出してしまう。
「っぷ、麗奈の顔見たら落ち着いた。平気だ。行こう」
「……ぁぃ」
魘されてかいた汗に若干の気持ち悪さを覚えつつトイレの前までやってくると。麗奈が俺を連れてトイレの扉を閉めた。
「いや、外で待っててやるから中は流石にまずいだろ」
『君は魘されてた。恐らく幽霊の所為、だからトイレの外にいて君が幽霊に襲われたらやばいよ。だから後ろ向いてそこにいて』
自分が怖い癖にまるで俺がビビっているかの物言いだ。間違ってはいないので黙って後ろを向き耳を塞ぐ。
俺だからと絶大な信頼を向けてくれるのは嬉しいがこう言った所は困りものだ。受け入れてしまう俺も甘いのかも知れないが。
少しの間、耳を塞いでいると、肩を叩かれたので向き直る。
ムギュっ
「なんで抱きしめるんだ?汗かいたから濡れちゃうぞ?」
『亡くなったお姉さんの夢を見たんでしょう?お姉さんも時々見るからわかるよ。心臓の音を聴くと落ち着くって聞いた事あるからお姉さんの心臓の音を聞いて』
お言葉に甘え、麗奈の胸にそっと耳を当てる。ドクン、ドクンと一定のビート刻んで動く心音は麗奈の甘い香りも相まって確かに心地いい。
『今日はお姉さんが抱きしめて寝る。そしたら大丈夫。安眠できるよ』
「ありがとう麗奈。でも、もう少しこうしててもいいか?」
コクリと麗奈が頷いたのを確認して、再び耳を当てる。
普段なら絶対言わないのだが、夢の内容が内容だ、俺も弱っているのだろう。
今はこの心地の良い音に集中しよう。
「麗奈、もう大丈夫。落ち着いたよ」
「……ぁぃ」
10分ほど経っただろうか。お礼を言って麗奈の胸から顔を離す。
麗奈とは逆に先程までバクバクと早い鼓動を刻んでいた自分の心臓も、もう落ち着きを取り戻している。
「着替えて寝ようぜ。麗奈の寝巻きも濡らしちゃったし」
麗奈が頷き、俺の肩に自分の肩を差し込んでトイレを出て部屋に戻った。
部屋に戻り、着替えを済ませると、2人で寝室のベッドに寝転んで抱き合う。
姉ちゃんと唯も呑気な寝顔で抱き合って寝ている。
「麗奈。今日は離さないでくれ」
いつになく弱気な俺の発言に、麗奈が手を伸ばして俺の頭を撫でる、優しく、壊れ物を扱うように。
『こういう時、声が出れば君を安心させてあげられる』
「そこに居てくれるだけで安心する」
現にトイレの時同様。麗奈の心音が聞こえる体制で寝ているため、非常に安心している。
『話せるようになりたい』
「なれるよ。時間はかかるかも知れない。けどきっとなれる、約束する」
『君が約束してくれるならなれるね………………』
そこまで読んで意識が遠のいて行く。脳が眠りにつこうとしている。
「……ぉゃ……み」
麗奈の声を聞きながら。
意識を沈めていく。今度は安眠できそうだ。