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通話が切れたみたいだ。唯がスマホをポケットにしまった。

「お母さんを騙してるようで気が引けるわね」

嬉しくも悲しいと言った複雑な表情を浮かべて言った。


「悪い事するわけじゃねーんだから、気にすんなよ。性別と名前以外大きな嘘は吐いてないんだ、麗奈は俺の家族だし、うちに父親はいない。縁を切られたからな。母さんの事は話してないけど」


「あらそう、じゃあ、私の両親に会う時もその服装でくるのね?来週の日曜両親揃って休みが取れそうだから由奈ちゃんのお姉さんも入れて、うちで夕食をご馳走しましょうって言われたのだけど」


「なんだそれ、断っておいてくれ。由奈の存在はファンタジーなんだ。未成年しかその姿を視認できないんだ」

「……あなたはティンカーベルなのかしら?」


ジト目で見つめてくる唯から目線を逸らし、俺はファミレスの大きな窓ガラスに映った自分の姿を見つめる。

うん、可愛い。じゃなくて、女装は今日で終わりだと思ってたんだけどな……。


「麗奈さんは来てくれるかしら?」


『唯ちゃんが誘ってくれるならもちろん(*゜▽゜*)私のお姉ちゃんだからね(//∇//)』


「ふふっ嬉しいわ。麗奈さんが来るならあなたも来るわよね?」

麗奈をだしに使って俺を誘い出すなんて卑怯だ。麗奈あるところに俺あり、約束によって回避できないのだ。


俺が行かないと言っても聞かないだろう、むしろ頑なに断り続ける俺に、瞳をうるうるさせながら、……駄目?って声に出して言ってくるに違いない。


それはそれで可愛い。のだが、出来るだけ麗奈の涙は見たくない。

「麗奈が行くならしょうがねえ、お母さんのご厚意に預かるとするわ」


しょうがない。これはしょうがない事なのだ。

麗奈が行くなら俺も行く、由奈を名乗ってしまったのだから由奈が行く、約束を守るためなのだから、嫌な女装もする、仕方がないことなのだ。


「ふふっ、最初から素直に行くって言えばいいのに、素直じゃない所も可愛いわ」


「だーっ、ほっとけ、そろそろ注文しようぜ。もう腹が減って死にそうだ。」

遠くで、あの人達まだ頼まないのかなって先程からチラチラとこちらを確認する店員さんと目が合う、ほんと、すみません。

申し訳程度に呼びボタンを押すと、数秒と掛からずこちらにやってきた。


「お待たせして申し訳ありません。ご注文は何にいたしますかー?」

こちらこそお待たせしました。


「唯先頼んでくれ」

麗奈が頼むものに寄っては食べきれなかった時に処理するのは俺、涼夏がいればブラックホールみたいに飲み込んでくれるので、任せておけば良いが、今日は生憎居ないので量を抑えて戦に備えるとしよう。


「じゃあお先に失礼するわね。えとナス入りミートスパゲティと、アボカドサラダ、デザートにぷ、プリンアラモードをお願いします…!」


何故プリンで顔を少し赤くするのか。味覚が子供っぽいから友達の前で頼むのは恥ずかしいとでも思ったのだろうか。

だとしたらプリン大好きな俺としては恥ずかしいものになるのだが……ええい俺の番が来たらは堂々と頼んでやる。


シャツの袖を隣からクイクイと引かれる、横を見ると麗奈がメニュー表を指差して居る。

「えっと、チキングリル一つと、小エビのサラダ、……か、可愛いキラキライチゴの……ふふふんわりパンケーキを一つ」


なんだそのネーミング!!プリンアラモードより注文するのが遥かに恥ずかしいじゃねえか!!

女性受けさせるために作られた商品ってこう言う男性が読むには恥ずかしいネーミングが多いよな。


確かに何か物を売るに当たって興味の引く名前と言うのは大事だ。けど男性にも頼まれやすいように略称を付けてくれてもいいと思う。

甘いもの好きな男性だって世の中には居る、この可愛いキラキライチゴとふんわりパンケーキを頼みたいけど、この女性受けするネーミングに尻込みしてしまうおじさんだってきっと居る。俺も頼みたい。


「グリルチキンのソースは、ガーリック、トマト、醤油と選べますが」


「麗奈どうする……?醤油ソースで……後プリンアラモード一つとドリンクバー3つ」



「ご注文繰り返させていただきますね、ナス入りミートスパゲティ、アボカドサラダ、チキングリルの醤油ソース、小エビのサラダ、可愛いキラキライチゴのふんわりパンケーキ、プリンアラモードが2つ、ドリンクバーが3つでよろしいですか?」

「ええ、大丈夫です」


唯が答えると、店員さんが軽く会釈をして、こちらを見てニコニコと微笑んでいる。


「引っ込み思案なお姉ちゃんのご飯も頼んであげて偉いわねえ、お姉ちゃんも可愛いし、私も可愛い妹さん欲しかったわぁ〜」

「ええ、自慢の妹です」

クールでしまった笑顔で、唯が言った。


俺は男だと店員さんに恨みの眼差しを向けてしまいそうになるが、今の格好は女の子だ。黙っておくのが吉だろう……ちくしょう。

「…………うっす」


力無く返事をして、去って行く店員さんを見送る、この見た目のおかげであべこべだ。

プリクラに黒歴史を刻まれるし、変な姉ちゃんにはナンパされるし、ファミレスに至っては麗奈の妹扱い。踏んだり蹴ったりだ。


『君がお姉さんの妹になるなら、真姫も許してくれるかもね(*゜▽゜*)』


麗奈がそう言うと、水の入ったコップがカラカラと氷のぶつかる音を立てて揺れた。


何?心霊現象?真姫ちゃん見てるの?


「真姫ちゃん怒ってるみたいだぞ、ほらドリンクバー取りに行こうぜ」


『きっと、机が揺れただけだよ。君は怖がりだなぁ(о´∀`о)』


「本当。怖がりなとこも可愛いけど。そういえば幽霊が怖い理由聞いてなかったわね。食事の後で聞かせて貰おうかしら」


茶化す2人を無視して席を立つ。だって本当に、誰もいない反対側に誰かが座る気配を感じる気がした。

不思議と怖いと感じる事はないので、葉月姉ちゃんか、真姫ちゃんどちらか、もしくは両方が側にいるのか?と錯覚してしまう。


だとしたら怖いけど、嬉しい。


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