30頁
「どっちも食べて良いぞ。好きな物を食べなさい」
生活費2万では外食に行く事も出来なかっただろう。
なので俺は麗奈に使うお金に関して出来るだけ出し惜しみしない。
『いいの!?(*゜▽゜*)デザートも食べて良い……?』
「良いぞ。たんと食べなさい」
『わーい!ありがとうパパ!(*'▽'*)』
ふふんと強く鼻息が漏れてしまった。
それぐらい麗奈の娘ムーブが可愛い。優雅な気分で水に口をつけ、飲み干していく。
「そう言えば春日くん、あなた朝も娘ってラインで言ってたけれど、そういうプレイがお好みなのかしら?」
「ああ、可愛いだろ。自慢の娘だ」
「……そう」
引かれたか?まあ俺も海が静香と親子プレイをしていたらぶっちゃけ引く。ドン引きだ。
くだらない事を考えていると唯が何かを言いにくそうに顔を伏せている。そんなに気持ち悪かった?俺。
「…………ぱ、パパ!唯も、デザート食べたい!」
心臓に何かが突き刺さった感覚に陥る。
きっと俺は今惚けた顔をしているだろう、そんな顔とは裏腹に俺の気分は高揚している。なんだこの気持ちは、これも父性なのだろうか。
パパ呼びに恥ずかしくなり意地らしく口をへの字に結んだ唯の頭を撫でたい衝動を抑える。
「いいぞ。唯も好きなもの頼みなさい」
『唯ちゃんも悠太の娘になるんだね(*゜▽゜*)私のお姉ちゃんだ!』
そこは妹じゃないのかよ……いや、麗奈の妹は真姫ちゃんだけだもんな。
「春日くん。私の妹、連れ帰っても良いかしら?」
「良いわけねえだろ。誰であろうとうちの娘はやらん。それがたとえ百合であろうとな。お前がうちに来い」
そうだ、逆に唯がうちに来ればいいんだ、どうせ両親も家を空けることが多いんだし。
姉ちゃんも静香同様唯を可愛がってくれるだろう。
「……ちょくちょく遊びに行っても良いかしら?」
節目がちに唯が言った。
「遠慮はいらない。なんなら両親が帰ってこない日は泊まっていけば良いさ、涼夏も麗奈も居るし。俺の娘になるなら唯も家族だ」
いくら高校生とは言え、唯は女の子だ、家で一人寂しく食事をさせるのは可哀想だ。
本人が望んでいるなら良いと思う。けどさっきの表情を見るに唯は一人を望んでいるわけではなさそうだ、俺に父を求めたのもきっと両親の愛が足りて無いからに違いない。
それなら俺は友として、唯の望む物を提供してあげたい。
「……ありがとう。お言葉に甘えさせていただくわね」
『今日早速うちに来るのー?(*゜▽゜*)』
「いいえ、明日学校だから今日は帰らないと……それに両親にも連絡して居ないのだから気が引けるわ」
「それなら帰りに唯の家寄って制服持って帰るか、唯、スマホ貸して、親と話させて」
「え、ええ」
動揺した様子の唯からスマホを借りた俺は、スマホの電話帳から母と書かれた登録名に通話を掛けた。
「もしもし?唯どうしたの?」
2コール程で通話が繋がり、唯によく似た女性の若い声がスマホから聞こえてきた。
「もしもしー、私、唯さんの友達で春日由奈と申しますー」
嘘を言っているが全てが嘘では無い。今日の俺は春日由奈だ、悠太って名乗れる格好をしていない。
「あらー!唯のお友達?初めて聞くお名前ねーどうしたのかしら」
「えと、唯さんご両親が家に居なくて寂しいって聞いてまして」
「あら、唯がそんな事を……」
唯母の声が沈んでいく。
「あ、いえ、唯さんのお母さんとお父さんの事を悪く思ってるとかではなくてですね!うちも両親が居なくて2人の姉と3人で暮らしてるんです!なのでですね……お母さんさえ良ければご両親が居ない時だけ家に泊まりに来て貰おうと思ってまして、その……姉が唯さんのこと凄く慕ってまして、私としても唯さんが泊まりに来てくれると安心します。女性が夜家に1人は物騒なので……」
嘘がバレないように間髪いれずに自分の要件だけを述べていく。こうする事で大人が相手でも少しの嘘ならバレずに話を進められる。多分、きっと。
「あらあら……ご両親いらっしゃらないのね……」
「はい……、父は最近居なくなりまして……」
これはある意味本当だ、勘当宣言されたから親子では無いも同然。
「それは……私も唯ちゃんを1人にしておくの心配してて……うちの唯ちゃんで良ければいつでも泊まらせてあげて……甘いたい時は私の事お母さんて呼んでもいいのよ由奈ちゃん……」
勝った。作戦は成功だ。
「お母さん……ありがとう。それじゃあ唯さんに変わりますね……」
「ええ、唯ちゃんをよろしくね」
「はい、唯」
スマホを唯に手渡し、コップに残った水を一気に飲み干す、ふぅ、やっぱ知らない人と話すのは緊張する。
「ええ、お母さん。由奈は大事なお友達よ。最近引っ越してきたのだけれど。すごく良くしてくれるの。ええ、迷惑はかけないようにするわ。それじゃあ、ええ、楽しみにしてるわ」