26頁
「ねえ、自分で立ちなさいよ、春日くんがいくら軽くても私女の子なのよ?このままじゃ動けないわ」
もう立ってるんだよ!分かれよ!こちとら女装バレしないよう必死なんだよ!
次第にプルプルと震え始める唯の体、俺の太ももの筋肉も限界を感じ始めている、チキンレースだ、これは先に折れた方が辱めを受ける。
もっとも唯は現在進行形で恥ずかしい思いをしてるんだけどな。
「あーもう!麗奈さん左側持ってください!私右側持ちます!」
無言の俺に、焦ったくなったのか麗奈に救援を要請すると、2人で中腰のまま動かなくなった俺を持って店外へと運び出す。まるで悪いことをしている気分だ。締め出し的な?
逆に注目を浴びたけど、助かった。いつの間にか鎮まったし。
「唯、麗奈、もう大丈夫だ、おろしてくれ」
自分の足で立てるって素晴らしい、五体満足で産んでくれた親……母さんには感謝だ。
「……はぁ……はぁ、なんで動いてくれなかったのよ……」
心底疲れた、と頬を赤く染め、肩で息をしている。なんかちょっとエロい。
『あの胸は暴力的すぎるよね(*゜▽゜*)』
スマホを俺だけに見せてくる。お姉さんはわかってるよ、と副音声が聞こえてきそうだ、お前が胸に埋もれたり胸を手で押したり胸を突いたりするからこうなったんだぞ。
「まああれだ、男の悲しい習性ってやつだ。わかってくれ」
「なっ!!!」
唯の視線が俺の下半身を食い入るように見ている。立ってないから立ってるんだろうが。分かれよ。
「わ、私で……たったのかしら?」
更に顔を赤く染まった顔に手を当て、そんな事を言い出した。
麗奈も真似て顔に手を当てている、おい、お前は分かってるだろ、無表情だし。
「唯、プリクラを撮りに行くんでしょ?早く行こ?」
外に出てまで注目されるのはいただけない、周りから見たら美少女3人だからな。プリクラは嫌だが背に腹はかえられん……ここで流れを変える為、先程見た映画のヒロイン、由奈の口調を真似て1人先に歩き出す。
「待てよ由奈」
唯に腕を掴まれ、振り向かされた。
「1人で行くなよ。お前しっかりしてるようで抜けてるんだから、こけるぞ?」
片手で抱き寄せ、顎に唯の手が添えられる、強制的に合わせられた視線に、聴いてるこっちが恥ずかしくなる結人のセリフの応酬。クールな唯の顔が近い!顔が熱い!
これはヒロインの唯がキュンときちゃうのもわかる、自分から振ったとは言え、ここまでされると、俺ですらキュンときてしまった。
「は、はなぇ……」
力無く、離すよう懇願する。
これも映画のワンシーンの再現だ、狙ってはいないが。
「か、可愛い!」
『可愛いよ!いいね!由奈と結人を見てるようだよ!』
2人から力強く抱きしめられ、また注目を集めることとなった。
――――――――――――――――
ゲーセンの店内で1人ベンチに座り、ダンスのゲームの上で派手に踊る女性を見つめている。
麗奈と唯は着くなり、お花を摘みに行った。俺も正直少しトイレに行きたい気分ではあるが、この格好がトイレに行く気にさせてくれない。
こんな格好で男子トイレに入っていったら最後、隣に立った人が腰を抜かしてしまうだろう。
かと言って女子トイレに入るのは、法に触れる。我慢だ。我慢。
「おーすげぇ、あの人パーフェクトクリアだ」
画面に表示されるパーフェクトの文字に驚く。
あの手のゲームは昔やった事がある。俺はリズムゲームと名の着くゲームは軒並み苦手だ、ダンスゲームなんてやったら足がもつれて転倒してしまう事間違いなしだろう。
「君、ずっと見てたでしょ」
パーフェクトを叩き出した女性がタオルで汗拭きながら話しかけてきた。
「あ、すんません……」
今の格好なら、女性同士にしか見えないので、単純に凄いから見てた、と言えばいいと思うけど、何故か反射的に謝ってしまった。
「あはは!女の子同士なのに謝る?私の踊りに見惚れちゃった?」
「あの、えっと。そんな感じです」
「……いいよ。君なら、可愛いし。私といいところ行こっか」
女性の手が俺の手を掴む、その手は汗をかいたばかりなのでしっとりとしている。
その筋の人だったか、美鈴、ここに仲間がいるぞ。
「いや、そう言うつもりじゃないです」
「そんなこと言わずにさ、あ、でも君未成年?」
「今年16になる高校生です」
「なんだぁー、めちゃくちゃ可愛い子を彼女にできると思ったのにー」
女性は心底落胆したように項垂れると俺の隣にドカッと座り込んだので、少し離れるよう間を開けて座り直す。
出会って3秒で合体を申し出る女性の彼女になる女の子なんて居るのか?危機感しか感じないぞ。
「期待させたようですみません、連れもいるので」
「連れの子も女の子?」
「はい、普通の友達です」
「えー!おっぱいとか触り合ったりくらいはするでしょ?」
煩悩まみれかこの人、初対面だぞ。
いや、麗奈は唯の胸に触れてたし、それくらいは女の子同士なら普通なのか?