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――――――――――――

バスで駅前に到着した俺達はまっすぐ映画館へと足を伸ばした。

この街で一番栄えていて、さまざまな店が立ち並ぶ駅前は昨日に引き続き人通りが多い。

歩けば人にぶつかりそうになるこの場所では自分の力で歩けないのがなんとも煩わしい。


麗奈に連れ添われ、待ち合わせ場所の付近まで来ると約束の相手が、いつものクールな雰囲気に似合わず、あからさまに不機嫌な表情を貼り付けて、映画館の前にあるコメディ系のおかしな形をしたキャラクターのポップアップの横で不釣り合いに仁王立ちしていた。


服装はロングスカートに、シャツ、薄手のカーディガン。髪型をいつものおさげでは無く、そのままに艶やかな髪を風に靡かせ、薄ら化粧をしてオシャレに決めこんでいて、今日のデートの為に気合いを入れてきたのが伺える。


そのデートに保護者同伴できた俺、時間にも遅れていないので、不機嫌の原因は間違い無くこれだ。


唯はまだこちらには気づいていない。さて、どうしたものか。


麗奈も唯の不機嫌さ加減に恐れをなしたのか、俺の服の袖口をきゅっと握った。


「見なかった事にして帰る事を提案する」

俺達は互いに顔を見合わせ、この事態をどう収束するか話し合う。

『それはマズイよ……また入院する事になっちゃうかも……』


「マズイな。次入院したら留年確定だ……それだけは回避しないと…」


『じゃあ、お姉さんはここで帰ろうか?(^◇^;)』

ここで麗奈を帰らせたとする……昨日のように変な虫が寄ってこないとも限らない。

「それは駄目だ。約束だからな」

約束を言い訳に麗奈の提案を拒否するが具体的な案が出てこない。

まあ、そもそも唯は怒って暴力を振るうタイプの人間では無いので、軽い冗談だ。

「よし、こうなりゃ土下座だ。所詮俺にプライドなんてものはねえ。見てろ麗奈ちゃん。あの激おこぷんぷん丸に俺が最強だってわからせてやっっっ!!!」

ガシっ。肩を掴まれた。麗奈とのおしゃべりに夢中になるあまり、唯から目を離していた……。

同じく肩を掴まれた麗奈と共に恐る恐る後ろを振り返る。


「貴方達。デートに2人で来るわ、私の事を遠くで観察して勝手にビビるわ……良い度胸ね」


そこには、青筋を額に浮かべニッコリと微笑む唯さんが……。


「やあ唯さん……本日はお日柄もよく、デート日和ですね……」

「そうね。泳ぐにはぴったりの気温ね、大きな石とロープを探してくるから待っていてくれるかしら」

肩を掴んだまま、唯が遠くを見る。唯の視線の先にはそれなりに流れの早い川が……確かに今日もじんわり汗を掻く程度には暑い、だがまだ季節は春と夏の境目の6月前半、川の水はまだ震え上がるほど冷たいだろうな……。

背中に冷や汗が伝う。

「唯……ごめん」


「全く。謝るくらいなら最初から変な言い訳しないの」


素直に謝った結果、少し機嫌が戻ったようだ。これでほっと一息、安心。

「それで?私とのデートに他の女の子を連れてきた理由は?まさかとは思うけど、2人は付き合っているから連れてきたとでも言うの?だとしたら私とデートをすること自体不誠実だと思うんだけど?」

ではなく、捲し立てるように言う唯、段々と肩を掴む力が強くなってきた。


「痛い痛い!付き合って無いけど俺たちはニコイチなんだ!俺ある所に麗奈ありなんだ!」

焦って口から出た言い訳は、唯にはとても理解不能なものだった。

「それを普通は付き合ってるというんだけど、あなたヤクザの方に脅された時に頭のネジまで吹っ飛んでしまったの?」


「とにかく!力を弱めてくれ!落ち着いて話をしよう!」

「仕方ないわね、それじゃあ改めて言い訳を聞かせてもらいましょう」

唯の手をタップし、降参を告げると、パッと手を離した。

じんじんと痛む肩を摩り、唯に向き直る。くだらない事を言ったら帰ってしまいそうだ。オシャレまでして楽しみにしてたであろう唯を怒らせたままここで帰らせるのは、流石に心が痛む。

『唯ちゃんごめんね。私が悠太と離れたく無いからワガママ言って連れて来てもらったの』


俺が言い訳をする前に麗奈からの救いの手が……そもそも麗奈が原因でこうなったんだからもっと早く説明して欲しかった。

「麗奈さんが?どうして?」


『私は悠太に依存してて、置いて行かれるのが嫌だった……』


「悠太くん、麗奈さんと話があるから」


くいと顎で離れるよう指示をされた。

女同士の話に俺は不要だと言うことか、2人が喧嘩にならないと良いけど……。


わかった、とだけ告げて唯の声がギリギリ聞こえる程度の距離まで離れる、俺が離れたのを確認すると、コソコソと2人が話し始めた。

くそ、これじゃ話が聞こえん……。


ただ、唯もいつもの表情に戻っているので今度こそ一安心かな?


――――――――――――


「と言うわけで3人でデートに行くわよ」

『いこー!(*゜▽゜*)』

5分ほど2人で話していただろうか、唯と麗奈は戻って来るなりそう言って両サイドから俺の腕に組みつき、強引に俺を引っ張った。


言い争いになるかもってのは杞憂だったようだ、勢い余って仲良くなったみたいだけど。何にせよ、同行を認めて貰えたようでよかった。


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