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2話1
女装デートの前準備として昨夜、元々薄いが男らしさの象徴とも取れるやっっっと伸び始めたスネ毛を麗奈に剃られた。
そして今俺はヘアアーティスト麗奈によるお化粧とヘアメイクを終え、鏡の前に立っている。
やあ、仕事に出て行ったはずの菜月姉ちゃん、さっきぶり、ちょっと幼くなった?少し目つきが悪いね。
前回と違って髪を短くしたので、見れば見るほど菜月姉ちゃんにそっくりだ。
「…………かゎぃ」
出来上がったヘアメイクを撫で撫でする麗奈。
今日の髪型はアイロン?を使って後ろ髪を巻き巻きしてウェーブを作り、前髪は七三で分けられ外に跳ねさせている。
何とも大人っぽい髪型なので身長の低い俺には不恰好かと思われたが、可愛い、これに尽きる。
服装は誰得黒いルーズオフショルダーのTシャツの中に白のタンクトップ。下は誰得白のショートパンツに誰得ニーハイソックスで誰得絶対領域をこしらえている。
勿論胸は無い、麗奈に作られそうになったけど、そこまでやってしまったらきっと俺は開けてはいけない扉を開けてしまう事になりそうなので、そこだけはやめさせてもらった。
「ありがとう麗奈。これで今日のデートは完璧だ。忌々しい事に」
鏡越しに麗奈にお礼を言う。鏡に映る麗奈も同じ髪型をしで服もいつものTシャツにジャージではなく、ワンピースを着てバッチリお洒落を決め込んでいる。
珍しい。家に居る時はルーズな格好をしてる麗奈がお洒落に目覚めたのだろうか。
『諦めて楽しんだら?お姉さんは君にお化粧するの好きだよ(*゜▽゜*)』
家の中で着飾る分にはまだいい。見られるのは身内だけだから。
これで外に出るとなると、歩き方等で男だとバレた場合白い目で見られそうで嫌だ。何より恥ずかしい。
「俺に女装を楽しむ器量なんてないよ」
『可愛いのに(ㆀ˘・з・˘)』
世の中には女装が好きな人もいる、ツイッターなどでそう言った人をよく見かけるしな。
けれどいくら似合ってると言われようと俺は俺を曲げるつもりはない。
俺は漢らしい男だ。
パッと鏡に映る自分が目に入る、可愛い。おおおお俺は男だ。
ちくしょう、これからこの格好で外に出るなんて嫌になるぜ。
だがこれも約束。嫌でもやり通さないと男が廃る。
パチンと手で軽く頬を打つ。気合いは充分さあ行くぞ。
「じゃあ行ってくるな」
麗奈に告げると、麗奈が頷いたので新調された松葉杖をつき、リビングを出て玄関へと向かう。
俺の後ろを麗奈がついてくる、トイレにでも行くのだろうか。
玄関に腰を下ろし、昨日買った女性物の靴に足を通す。麗奈は後ろに立っている。お見送りしてくれるのか、可愛いな、お土産でも買ってこよう。
「行ってきます」
麗奈に言って外に出る、少し歩いたところで鍵を閉め忘れた事に気づいた、いくら麗奈が居るからと言っても女性だ、強盗に入られてはいけない。
鍵を閉める為振り返ると、麗奈が立っていた。
「麗奈もお出かけか?」
「…………ぅん」
「そうか、鍵は閉めたか?」
「…………ぅん」
じゃあ一安心だ。
「気をつけて行くんだぞ?」
「…………ぅん」
そんじゃまあ、気乗りしないけど行きますか。
麗奈に背を向け、集合場所へと歩き出そうとした瞬間だ。
松葉杖を後ろから取り上げられ、代わりに麗奈に腕を組まれた。
「何してんの?」
と聞くとポケットからスマホを取り出して文字を打ち込んで見せてきた。
『デートに行くんだよ?』
「保護者同伴のデートなんて聞いた事ないよ。いいか麗奈、デートってのは男1人、女1人で成り立つ物だ。まぁ女2人の場合もあれば男が2人の場合もあるけど、そう言うのは百合、またはBLって言うんだ。どちらにせよ、2人きりで出かける物なんだよ」
『それくらい知ってるよ(๑╹ω╹๑ )』
「なら、俺が言いたい事もわかるだろ?お家で大人しくしてなさい。もしくは涼夏でも起こして遊んでもらいな」
いやいやと子供のように首を振る麗奈。
「困ったな。これじゃパパ出掛けられないな」
『約束だもん。私とパパはニコイチだから問題ないよ』
意地らしくこちらを見つめる麗奈の目が次第に潤んでいく。
しょうがない、唯にどやされるかもしれんが連れて行くか……。
空いている手でスマホを取り出し、ラインを開く。
一覧から一番上にある唯を選択してっと、うちの娘も連れて行きます。送信。
すぐに返信があったけど、怖いので無視する事にした。
「はぁ」
ため息をひとつつく。これが親バカってやつか。娘、可愛いもんな。
「じゃあ行くぞ、パパが倒れないように支えてくれよ」
「………………ぁぃ!」
隣に寄り添う麗奈は無表情だが嬉しそうに見えた。