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「怪我させたんだから慰謝料払えよ!」
「そうだそうだ!」
あの人に連絡を入れて、事務所に犯罪者2人組を運んで戻ってきた涼夏に連れられ店の奥にある事務所へとやって来て俺が見たものは意識を取り戻し威勢よく騒いでいる金髪と茶髪だった。
反省のはの字も無いなこいつら、足を事務所の机に乗っけて腕組んでやがる。
「あのねえ、さっきから何度も同じ事を言ってるけど、君達がやろうとした事は犯罪なんだよ?」
「関係ねえよ!こっちは怪我させられてんだ!」
何を言っても無駄な2人にオーナーも呆れている様子だ。
この状況で何故強気に出れるんだ?、ただの馬鹿か、何か後ろ盾があるのか。
金髪の方を注視してみると、それなりに高そうなアクセサリーや服を身につけているような気がする。
「俺の親は有名企業の社長だからよ!!この程度金積んで揉み消して貰えるんだよ!」
後者だったか、となると訴えても揉み消されて終わり、示談にしても大金積まれて終わり……か。
「なあ姉ちゃん達!俺らのセフレになんねえ!?ちょーど輪してる女にも飽きてきた頃なんだよ。そしたら怪我の事は許してやるよ!美味しい思いもさせてやるぜ?」
金髪が言い、ニタニタと下卑た笑みを浮かべ、2人がこちらを品定めするように下から上まで視線で舐め上げる。
「でもよ。青髪の姉ちゃんがギリギリじゃね?後の2人も顔は良いけど乳がねえ!」
「かーっ相変わらず分かってないっしょ!無いなりに一生懸命奉仕させるのが良いんじゃねえか!」
松葉杖をついて、ギャハハと笑う2人の元へと歩いていく。
「悠くん?」
金髪の前で立ち止まる、目つきを細め、ぎろりと見下ろす。
「なんだぁ?その反抗的な目はぁ、俺怪我させたらお前の家族を奴隷に落とすぞ」
前のめりに体制を変え、首を伸ばし下からガンをつける金髪。
松葉杖を反対に持ち替え、振り上げる。アドレナリンもドパドパ出てるみたいだ、立つくらいなら大丈夫だな。
「もうさ、しゃべんなくていいよ」
そう告げると同時に思い切り振り下ろし、鈍い音と共に松葉杖は砕け散ると、金髪の頭は事務所の床へと叩きつけられた。
キレちまった。完全に。
権力振りかざして弱者を好き勝手しようとするこいつらに。
何より麗奈と涼夏をヤラしい目で見られたのに耐えかねた。
「お、おい内藤!!おまええ!」
激昂した茶髪が立ち上がろうと、腰を浮かした。
「大人しくしてろよ」
「ぐえっ」
ところに、右足で前に飛び、器用に右足で茶髪の腹部に蹴りを入れ、椅子ごと後方に吹き飛ばした。
「うぐってめぇ……ただじゃおかねえ……」
威勢がいいのは言葉だけで、腹を押さえて悶絶している。
「ただじゃおかない?じゃあ何もできないように痛めつけておかないとな」
金髪が座っていた椅子を持ち上げ茶髪に歩み寄る。
「ま、待ってくれ!いや待ってください!大人しくするから!すみませんでした!」
「…………っち、最初からそうしとけよ。もうすぐ迎えが来るから、静かに待っとけ」
そう吐き捨てて、椅子を床に蹲る茶髪の前に下ろすと、そのまま座る。
やべぇよな。完全にやっちまったよな、俺。
一時の感情の昂りに任せてとんでも無いことをしてしまった、オーナーなんか俺の豹変ぶりに度肝を抜かれて呆けている。
今からでも入れる保険はありますか?
「すず、れい。お前らは今回この件には関係ないから帰れ」
茶髪の意識がある以上、気休め程度だが本名を呼ぶ事はしない。
あの人が何とかできなかった場合、俺のこれからが危ない、そうなると今一緒にいるこいつらまでも危険が及ぶ可能性がある。
最悪親父の名前を出せば最悪何とかなるかも知れない。だが親父に知られれば姉ちゃんと共に実家に連れ戻され、姉ちゃんがどんな目に合わされるか。
それに親の力に頼って揉み消して貰う事をすれば俺もこいつらと変わらない。
現状の俺ではどうしようもない。それでもこいつらだけでも守りたい。
「ぶっへぇ!」
そんな俺の気遣いを無視して、涼夏が茶髪に蹴りを入れた。
「ほら、これで共犯だよ、悠くんさ、何言ってんの?帰るわけ無いじゃん。あの人に連絡したんでしょ?なら大丈夫だよ、きっとダメなら最悪海外にでも飛ぼうよ。お母さんならそれくらいのお金あるよきっと!」
目の前に麗奈のスマホが差し出された。
『約束守れよ馬鹿』
逞しいな、こいつら。俺が勝手に自爆しただけなのに。
「俺は約束守るよ!何があっても絶対に生きて帰る。ただ、今はお前らが危ないから逃がそうとしただけだよ」
「にしてもだよ。言い方が不器用すぎ。俺が守るから平気だくらい言えないの?」
「それが言えたら苦労しないっての!でもまあ、海外に飛んじゃいます?涼夏イタリア行きたいって言ってたもんな」
「いいね!お母さんの会社にイタリア支社があるから飛んじゃおうよ!」
『じゃあお洋服買ったら観光ガイドの本も買いに行こう(о´∀`о)』
「………………イカれてやがる」
ただ3人揃って現実逃避をしているだけなのになんて物言いだ。