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山本さんの仕事が終わるのをカフェで待って合流した俺たちは、スーパーに寄って食材を買い、家路についた。
でかいテーブルやベットなどの、その場で持って帰れない物も、山本さんの計らい、で即日配達してもらえることになった。
その点だけは姉ちゃん達が友達になって良かったかもしれない。なんて現金な事を考えてる俺はクソ野郎だな。
てことで、俺は今、リビングでテーブルを組み立てている。
ちなみに姉ちゃん達は、俺が絶対に組み立てを拒否したダブルベットの組み立てに勤しんでいる。
怪力の涼夏もいるからベットの組み立てくらい楽勝だろ。
「なぁ、悠太、お前なんかリクエストとかあるか?」
リビングを挟んで反対側にあるダイニングキッチンでは、雪兄が料理をしている。
いきなりパーティーをやるから料理しろ、と言われたのに、自前のエプロンを出してきてノリノリだ。
流石は生粋の料理人、料理をする事を生きがいに生きてるような男だ。
「なんでも良いよ」
1番困る返答である。
基本的に食べ物に好き嫌いはない。葉月姉ちゃんに怒られるからな。
「なんでもかー!じゃあ手羽先は焼くとして…ポテトサラダと…」
なんだかんだ料理している時の顔はかっこいい。
あ、ねじ一本無くした……まあいっか。
「まぁなんだ、戻ってきて初日だけど、楽しいか?」
「疲れる」
気になって聞いて来たのだろうが、素直に返す。
「そうか!慣れないことをしてるから仕方ないな!」
向こうに居た頃は、親や姉ちゃんとも関わることなく、金髪でチビだから舐められていたので、喧嘩三昧だった。
世間体として、入学した高校も入学式以来、出席もして居ない。
喧嘩をして居た方が葉月姉ちゃんを失った喪失感から気が紛れたからだ。
それが災いして昨日追い出されたわけだが……。
「慣れないよな……」
「でも、それだけか?」
それだけではない。久しぶりに姉ちゃんと話して、みんなと関わって、疲れるが安心する。
葉月姉ちゃんを助けられなかった俺なんかが素直に、この状況を受け入れていいんだろうか……。
「難しそうな顔してるな、今は流されてでもここに居るしかないんじゃないか?」
「流される…か」
「悪いことしようってわけじゃ無ければ、今は何も考えず、流れに任せるのも悪いことじゃない。どの道お前はここからは逃げられないしな」
力ずくで逃げようとすれば逃げられないことも無い……がその場合は涼夏や雪兄が怖い。
それに姉ちゃんを泣かせるのは俺的にアウトだ。
「逃げる気はないよ」
というと雪兄は笑みを浮かべて満足気に頷いた。
「おう、もしお前が力ずくでもここから逃げようとしたなら、俺がお前を殴ってでも止めるつもりだ、ハッハッハ!」
怖いよ。喧嘩ばかりしていた俺は、もう失う物は無いと、いつも捨て身で挑んでいたので、自画自賛では無いが腕っ節には自信がある。
そんな俺だけど、同じ道場に通っていたこの人と、葉月姉ちゃんにだけは武器を使っても敵わない。挑む事すら馬鹿らしい程この2人は強かった。
なんでも見透かされてる気がする。
「その時は、雪兄に頼む、俺はあの時から逃げ癖が付いてる」
流石に涼夏(女の子)にフルボッコにされるのは心が折れる。怖くてもこっちのがマシだ。
「お?素直だな!任せろ!俺は強いからな!」
お互い無言で作業に戻った。
テーブルの組み立てを終わらせ、雪兄の料理を手伝っていると、姉ちゃん達が2階から降りてくる音が聞こえて来た。
「終わったよー!そっちはどうー!?」
バーン!と涼夏が扉を開き、3人が入ってきた。
「こっちもちょうどできたところだ!悠太も手伝ってくれたからな!」
「男の娘ちゃんとイケメンさんが並んで愛の共同作業!ブハ!良いですね良いですね!」
「ちょっ!沙織さん!カーペット新品だよ!」
と鼻血を流す山本さんに涼夏がすかさずティッシュを手渡すと、山本さんが申し訳なさそうにそれを鼻に当てた。
もう何も言うまい…言われた通り流されておこう……。
「すみません、私の性癖に刺さるんですよね、悠太くん」
ふええ、この人怖いよぅ。
「でもお2人さんにイケメンさん、安心してください、私はあくまでカップリングを見て愛でる側なので、邪魔はしません」
「ふふ、沙織ちゃんって本当面白いね、それじゃあみんな席について、そろそろ始ましょうか!」
姉ちゃんの、掛け声と共にみんなで席に座る。
本当なら蓮さんも待った方がいいのだが、先程急な仕事が入ったらしく、遅くなるので今日は不参加……社長って大変だな。
どこに座るか。
雪兄の隣に座ってカップリングとか言われるのも面倒だな、一番安全な涼夏の隣に座るか。
「じゃあ乾杯の音頭の前に料理長の雪人くん」
「腕によりをかけて作ったからな!よく味わって食べてくれ!」
料理長と言われて嬉しそうにしている。
「じゃあ乾杯の音頭はなっちゃんと悠くんだね」
何!?俺も!?
「えーと、向こうに居た頃は、悠太とも話せなくて、両親とは顔を合わせると口喧嘩ばかりで…正直精神的に限界だったんだ…けど悠太と共にこっちに戻ってきて、仲のいい幼馴染達に弟共々受け入れてもらえて本当に嬉しい。もちろん沙織ちゃんとも知り合えて嬉しいよ。」
両親と口喧嘩…時々耳にしては居た。もっとも口喧嘩をしていたのは父だけだが。
葉月姉ちゃんは容姿端麗で文武両道…何でもできた天才だった。
そんな葉月姉ちゃんだから親父は後継者に…と期待をかけて育てていた。
逆に菜月姉ちゃんは、勉強も運動も出来なかった…いや、努力で葉月姉ちゃんには及ばずとも勉強は伸ばしていたけど、親父の目には葉月姉ちゃんしか見えていなかった。
俺は長男と言えど元々出来すぎる姉の後に生まれた弟だ、最初から期待すらされていなかった。
だから、俺達落ちこぼれが原因で葉月姉ちゃんが亡くなったあの時から親父は菜月姉ちゃんや俺に対しての物言いが更に厳しいものになった。
俺は……いつも俺は姉ちゃん1人に押しつけて1人逃げていた。
なのに……姉ちゃんは……。
「い、おーい、悠くん!?すごい汗かいてるよ!!どしたの!?」
トントンと涼夏に肩を叩かれていた。
嫌な事を思い出した……息が上がる、バクバクと心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。
「悪い、ちょっとな、でも大丈夫だ」
大丈夫、この人達は、大丈夫だ。
自分に言い聞かせる。
「俺もっ……姉ちゃんに……同意見だ」
息も絶え絶えに告げる。
「どう見ても大丈夫じゃないよ、ちょっとお外の風にあたりに行こう?私も一緒に行くから…なっちゃん、いいよね?」
涼夏に促され席を立つ。
「うん、悠太ごめんね、思い出させちゃったよね…涼夏、頼むわね」
「……大丈夫っ、ごめん、空気壊して」
「そんな事はいいから行くよ」