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肉のお盆を携え、席に戻ろうとする麗奈を引き止めるように二人組の男が麗奈の道を塞いでいる。
1人は金髪で身長が高い、もう1人は茶髪で中肉中背。髪は染めているようだが見た目がチャラいだけでヤンキーでは無さそうだ。
「なあなあ、良いだろ?俺たちと飯食おうぜ!」
今のところ麗奈に触れては居ないみたいだが、男性恐怖症の麗奈は震えている。
店の中で荒事は避けたい、話が通じる相手だと良いけど。
「すみません、ちょっと通りますね。麗奈、何してんの?」
男の脇を通り過ぎて麗奈の元へ行くと、ホッとしたのかため息を一つついた。
『お肉持って戻ろうかと思ったのにこの人達が通してくれなくて……あっちでご飯食べようって』
「そう言うことか」
なんて事はない、ただのナンパだ。
麗奈が手にお盆を持っていて話せないから少し拗れたのだろう。
男達から遠ざけるように麗奈の前に出る。
「へぇ、そっちの娘も可愛いじゃん!お兄さん達と一緒にどう?」
「俺ら顔も悪くないっしょ?」
金髪と茶髪が俺を見てニヤニヤしている、なんだこいつら男が好きなのか?
「御生憎様、連れを待たせてるんで。それに俺は男なので、申し訳ないがお互い席に戻って大人しく飯食わないか?」
あくまでも相手を刺激しないように戻る事を促すが、男2人は吹き出して笑い始めた……イライラメーター20上昇だ。
「あはははは!何を言い出すかと思えば面白い冗談じゃん!でもそんだけ可愛かったら男でもいいかもな」
「おえーっ、お前ホモかよー!」
「冗談冗談。まっ冗談は良いからよ、こっち来なよ!連れの子も連れておいでよ」
はぁ、ため息が出る。
イライラメーターは一瞬で限界を通り越して逆に冷静になってしまった。
冷めた目で男達のやり取りを見る、次に変な事を言われたら暴れてしまいそうだ。
「麗奈。先に涼夏の所戻っててくれ」
「おっ、連れも女の子なん!?やりぃ!君達めっちゃ可愛いから連れの子もめっちゃ可愛いんじゃね!?どこどこ?」
キョロキョロと茶髪があたりを見渡すが、身長が低く、こちらからは死角になっているので涼夏を見つける事は出来ない。
外歩いてるだけでも非愉快な視線に晒され、飯食うだけでこんな頭の悪い奴に絡まれるのかぁ。
つうか、周りで見てるだけの野次馬さん達、この状況止めに入ってくれよ。店員さん……は女の子しか居なかったから仕方ないか。
「焼肉でスタミナつけてー、その後は運動っしょ!お兄さん達めっちゃ上手いから!気持ちよくしてあげるっしょ!」
上等だこの野郎。茶髪は涼夏を探しているから隙だらけだ。なのでまずは目の前に立つ金髪のこいつだな。
俺は徐に皿を乗せる用のお盆を手に持つ。
「おっ、来てくれんのー?肉なら俺たちの所に沢山あるから取らなくて平気っしょ!」
そのお盆を何を勘違いしたかわからん金髪にお盆を叩きつける為、振り上げる。
「待ちなさい君達、こんな所でナンパなんて非常識だぞ」
今まさに、全身全霊の力を込めて金髪の顔面にお盆をプレゼントしようとした瞬間に俺たちの間に男が割って入った。
「なんだよ、おっさん!」
もちろん金髪が抗議の声を上げる。
歳はうちの親父と同じくらいだろうか。確かに良い歳なのだろうが、清潔感のある出立ちでそれなりに若く見える。
「後はおじさんが何とかするからね」
おじさんはこちらに笑顔を向けると、ダンディズムを感じるカッコいい声で言った。
いいな、俺もこう言う歳の取り方をしたい。
「おっさん後から入ってきて何勝手に決めてんだよ!」
「そうだよ!お呼びじゃないっしょ!」
涼夏探しを断念した茶髪と共に金髪がおじさんに掴み掛かった。
2人して力を込めて押しているのだろうが、おじさんは一歩も動かない。
それどころか、2人の腕を掴むと入り口の方へと歩いて行った。
「ここはみんなが平等に楽しくご飯を食べる所だ。君達のように自分勝手な人達が好き勝手して良い所じゃない。大人しくご飯を食べるって言うなら何もしない。だけどこれ以上変な事をするなら僕が相手になろう」
「こいつやべえぞ……ここは従っておこうぜ」
「……お、おう……すみませんした!」
「俺達が間違ってました!」
おじさんが、凄むと2人組は怖気ついたのか、ひそひそと話し合い謝罪の言葉をおじさんに述べる。
「謝る相手が違うだろ?」
おじさんが俺たちに手を向けると、2人組が慌てて俺たちの前で頭を下げた。