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店内に入ると、ジュージューと肉の焼ける音と共にジューシーな臭いが鼻腔をくすぐり、口の中で無意識に唾液の分泌量が増える。
「お客様3名様でよろしいですかー?」
カウンターの前で待っていると、厨房から慌ただしい様子で出てきた店員さんに話しかけられた。
「3人です」
3人以上に見えますか?等と野暮な小ボケはせず、真面目に答える。
「3名様お席に案内しまーす!!ついてきてくださいねぇ」
元気よく報告をすませた店員さんの後をドラ◯エのように一列になって着いていく。
店内には家族連れや、仲間内でわいわい食事を楽しむ学生達、子供がだーっと走っていたり、とても賑わっている。というか一周回ってうるさい。
席に着くと、店員さんが店のシステムについて説明をして去っていった。
4人がけのテーブルの正面に涼夏、左側に麗奈が座った。
「それじゃ、私取りに行ってくるね!」
涼夏が席を立ち、我先にと食材達を取りに行った。
『君は歩けないからお姉さんが取ってきてあげる。何が食べたい?』
食の事となると周りが見えなくなる幼馴染とは違い、このお姉さんは本当に気がきく、ありがたいかぎりだ。
「麗奈が選んだ物ならなんでも良いよ。取り敢えず肉と食べたい物は先に2人分確保しといた方がいいぞ、その都度取りに行くと、欲しい時には無くなってるからな」
『もう涼夏ちゃんがお肉を取りに行って40秒……お姉さん行ってくるね(`・ω・´)』
これ以上出遅れると一品くらいは無くなってそうだからな。
麗奈も席を立って、一つ深呼吸をして気合を入れ、戦地へと向かっていった。
頑張れ麗奈、俺のお昼ご飯は麗奈に掛かってる。
最悪、小さな怪獣に食べ尽くされたとしても、後でクレープでも奢ってあげよう。
「たっだいまーっ」
両手に一枚ずつお盆を持った涼夏が先に帰ってきた。
片方にはラーメン、カレーライスが乗っている。
ラーメンは目測で2玉、カレーは3人前。
もう片方のお盆には、各種山盛りに積まれた肉の皿。
もし、自分に子供が居たとして、欲張ってこの量の食料を持ってきたとしたら叱りつけているだろう。
こいつならぺろりと食べてしまうから末恐ろしい。
「悠くんこれ好きだよね」
山盛りの肉の皿の中から、ホルモンを指差す涼夏、一応分けてくれるつもりはあるのか。
だけどそんなに食べたら痛風まっしぐらだ。そのくらい多い。
「好きだけど最初からは食べないな。少しずつでいいぞ」
「分かったよ!じゃあまずはカルビから焼くね!」
カルビの皿を持ち上げ、ペタペタとカルビを熱した網の上に隙間なく並べていくが、皿にはまだ半分くらいカルビが残っている。
ラグビー部かよ、少しずつ色んな物を焼いてくれよ。
2人と1人に席を分けるべきだったかもしれない。
「よし涼夏、お前も好きなものを好きなだけ食べたいだろう?」
「うん!」
元気のいい返事だ、可愛い。
「そこでだ、領地を決めよう。まずは世界の半分をお前にやろう。その代わり半分を俺と麗奈に使わせてくれ」
「なんでぇ?カルビ嫌いだった……?」
頼むからそんな悲しそうな顔をしないでほしい。胸が痛む。
「嫌いじゃないんだけどな、いいか?そのカルビが無くなるまで食べたら俺の小っちゃな胃袋は一瞬でパンパンになってしまうんだ。俺は少しずつ色んなものを楽しむ。お前は好きなだけ色んなものを楽しむ。どうだ?win-winだろ?」
「そうだね!じゃあ次のカルビからは網の半分までにするね!」
「おう!お前が食べてる姿を見るのは好きだから楽しんで食べてくれ!」
「うん!いっぱい食べる!悠くんも麗奈ちゃんと、私のとこから取って食べても良いからね!」
遠慮なしのチビ怪獣も、成長して丸くなったみたいだ。
えへへと笑い、網へと箸を伸ばし、一枚一枚丹念にカルビを裏返していくと、脂が滴り落ち、それがまた食欲を誘ってくる。
「そう言えば麗奈が戻ってこないな」
「もぐもぐ、ごくん。たしかに」
ラーメンを食べながら涼夏が答えた。
涼夏が戻ってきて、かれこれ5分ほど過ぎている。
よっぽどの事がなければ戻ってきていてもおかしくないはず、変なのに絡まれて無ければいいが。
「ちょっと見てくるわ」
席を立って、松葉杖を突きながらバイキングの方へと歩みを進める。
嫌な予感ほどよく当たるとは言ったもので、見事に的中だ。