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「ふぇ!ほほほほんとう!?」
何故顔を赤らめる必要がある。
そんなに麗奈と結婚したかったのか、となると俺に向けてくれていた好意はどこへ行ったんだろう。
少し寝取られ感が否めないが麗奈なら、こいつを幸せにしてくれると俺は信じてる。
「あぁもちろんだ。俺はお前達の幸せを一番に願ってる」
『君は涼夏ちゃんと結婚か……正式に娘にしてくれる?』
「何言ってるんだ?涼夏と麗奈が結婚するんだろ?」
「へ!?私と結婚してくれるんじゃないの!?」
涼夏が驚愕の真実が発覚と言わんばかりに目を見開いて言ってきた。
何を言ってるんだ、今は男の娘とは言え俺も成長したら大人の男になる。はずだ…。
俺と涼夏が結婚するとなったら百合では無くなってしまう……それはいけない。
「麗奈がな」
と短く返す。すると赤かった顔を更に茹で蛸のように赤くして
「悠くんのアホ!バカ!マヌケ!女の敵!」
涼夏がポカポカと胸を叩いてくる。ポカポカと可愛い表現とは違って威力は重く、鈍い鈍痛が肋骨に響く。
「痛い痛い痛い!なんで叩くんだ!」
「私の乙女心を弄ぶからだよ!」
「痛っ!暴力は駄目って昨日蓮さんからめちゃくちゃ怒られただろうが!」
『これは君が悪いよ。女心がわかってない』
昨日と評価が真逆だ。何故だ、俺は最高の百合を追求しただけなのに……。
「もう悠くんなんて知らない!」
突然打撃が止んだかと思うと、涼夏は俺から離れ腕を組み、ふくれっ面をプイッと背けた。
俺も麗奈に支えられて何とか立っているが肋骨に受けたダメージは大きく、すぐに話せそうにない。
それぞれが無言のまま時間が過ぎていく。
1分ほど経っただろうか大分痛みが引いて来た。さて、どうしたものか
「な、なあ涼夏?飯奢ってやるから許してくれないか?」
我ながらクズいとは思う。飯で釣る作戦だ。
流石の涼夏でもこれでは懐柔できないか……?
「別に怒ってないよ。ただプロポーズしてくれたと思って舞い上がっちゃっただけだよ」
「……尚更ごめん」
「いいよ。待つって言ったもんねっ、私は待てる女なので問題無しです!」
『あんまり涼夏ちゃんを揶揄ったら駄目だよ?幼馴染とは言え親しき中にも礼儀あり、涼夏ちゃんを悲しませたらお姉さん怒っちゃうからね\\\٩(๑`^´๑)۶////』
揶揄ったのでは無く、妄想が暴走して本気でそんな事を言っていた訳だが……この空気でそんなことを言える筈もなく、俺は黙って頷いた。
「それで?麗奈さんからお出かけするって聞いたけど、何処へ行くの?」
空気をぶち壊してくれるように明るく涼夏が言った。
この空気にした後だ、これから話す内容も地雷じゃないと良いんだが……。
取り敢えず松葉杖を拾って体制を立て直す。
「麗奈、支えててくれてありがとう。もう大丈夫だ」
『うん、どういたしまして(=´∀`)』
麗奈にお礼を言い、涼夏に向き直る。
「お出かけの件だけど、詳しく説明すると2週間前に唯を泣かせちまっただろ?その時一回だけ何でも言うこと聞くって約束したんだ」
「うん」
「ギブスが外れたって言ったら……デートして欲しいって言われたんだけど……その、服装にも指定があってな」
良かった、今のところ笑顔だ。
「ふむふむ」
「その服装がな……女装をしてきて欲しいってな」
「ぷっ、あはははは!何それー、それで服が無いから買いに行きたいって事?いいよっいこ!」
察しがいい、流石幼馴染と言ったところだ。
どうやらデート自体は逆鱗には触れないらしい。
「お、おう」
「そんなこと言いにくそうにしてたの?私たち付き合ってないんだから悠くんが誰とデートに行っても仕方ないよ、相手は唯だし。安心して任せられるよ!」
嫌だとははっきり言わない。意地らしい姿は心が痛む。
「俺は……涼夏と麗奈が男とデートしてたら、嫌な気持ちになる」
多分、恐らくこう言えば喜んでくれると思う。その言葉が呪いとなって優しい2人を縛り付けることになろうとも。
喜んでくれると言うのは建前で、涼夏の言葉で逆の立場を想像した時に出てきた醜い嫉妬心だ。
「ふふっそう言ってくれて嬉しいよ!大丈夫だよっ私は誰ともデートなんてしないから安心してねっ」
『そもそもお姉さんは男性恐怖症なのにデートなんてできないよ(*゜▽゜*)』
こうやって自己顕示欲を満たして、本当に醜い男だ。
「そろそろ行こっか!お昼過ぎちゃうよっ!」
「そうだな……じゃあ麗奈着替えてきな」
コクリと頷いて麗奈は2階へと上がっていった。
「悠くんは色々考え過ぎなんだよ。私は考えなさ過ぎだけどねっ」
麗奈の姿が見えなくなると、涼夏が口を開いた。
「突然なんだよ。そんなに顔に出てたか?」
「出てたし、悠くんの考えてる事なんて顔を見なくてもお見通しだよ。幼馴染だからね。麗奈さんも気付いてるかもしれないけど」
「そうか……」
「私は好きで悠くんを待ってたの。だから私に気を使わないでよ」