真夜中は不安
真夜中は不安だ、私はいつも不安を抱えている。
何が不安かと問われると、何でもないことが不安でしょうがない。
形のない不安、それを抱えて私は生きてる。
みんなには見えない不安が私は怖い。
そうやって、真夜中公園に来る。
真夜中の公園では、ホームレスのおじいちゃんたちが焚火をしている。
公園で焚火は本当はダメなことだけどね…
でも、ホームレスのおじいちゃんたちの話は私の不安を和らげてくれる。
そんな、ありふれた日常が私は好きだった。
でも、今日はおじいちゃんたちがいない…。
「どこにいったのかな?」
あたりを見渡すとおじいちゃんたちの中で最年長の梅田さんを発見した。
「梅田さんみんなはどうしたの?」
「あぁ、君か…。みんなは今日は来ないよ」
不思議そうな顔をしている私を優しく焚火のそばに促してくれた。
「みんなどうしていないの?」
「みんな少し用事があって出て行ってしまったのだよ」
私は少し不安になってきた。
みんなこんな時間にどこか行って、帰ってこなかったらどうしようと。
「真夜中は不安かな?」
「うん、不安」
梅田さんは優しく目を細めて「そうかそうか」と言ってくれる。
「君はいつもここに来てくれて私たちの何気ない話を聞いてくれたね」
「え、えぇそうだね」
「不安な時のおまじないを教えよう」
私は首を傾げた。
「不安な時のおまじない?」
「そう、不安な時はね、私は一人じゃないよと言うんだよ」
「えー、それだけ?」
私は少し愕然とした。
そんな暗示みたいなの聞くわけないじゃん。
「ふふ、疑っておるね。なぁきみは本当にひとりかい?」
「いつも一人だよ家でも学校でも」
「そうか、それは悲しいな」
「同情?」
「いいや、私たちがいるのに一人ぼっちと言われて悲しいなと思ってね」
私は、目を見開いた。
「私たちは君に幾度も救われてきた」
「え」
「冬の寒い夜には毛布をもってきてくれて、夏の暑い日は冷たい麦茶を持ってきてくれた。それだけで、どれだけ救われたか」
私は涙が出てきた。
私のおかげで救われる人がいた?
それを、考えただけで涙があふれて止まらない。
「ありがとう。そして、君は一人ではない。頼りないかもしれないが私たちが仲間だ。だから、君は一人じゃない」
「梅田さん…、ありがとう…」
「どこにいても、どんな時もそれを忘れないで、そして、ここに来なくなっても、それは変わらないからね」
「来なく…?」
「ふふ、さぁ夜明けだ、家族に気づかれないようにそっとお戻り」
「うん…、わかった」
そういわれて私は家路につく。
その次の日、一本のニュースが流れてきた。
「梅田浩二さん85歳の無職の方が昨日、搬送された病院で亡くなられました」
それを聞いて私は嘘だと思った。
「だって梅田さんは昨日…」
ダッシュで家を出ていつもの公園へ駆け寄る。
「おお、君か」
少し大柄のホームレスの人が私を見つけて声をかけた。
「梅田さんのことニュースで知ったのかな?」
「梅田さんは本当になくなられたの?」
「あぁ、そうだよ…。昨日心臓発作で亡くなられた…。俺達には何もできなかった。」
「嘘よ!だって昨日話したもん!本当よ!」
大柄のホームレスの人の服をつかんで必死に訴えた。
すると、少し小柄で細いホームレスの人が。
「きっと最後に良くしてくれていた君に最後の挨拶をしたかったんだね…」
泣きながらそう言うと「君にはもう一つ教えなきゃいけないことがある」と言われた。
私は何が何だかわからず、ただ、話を聞いた。
「私たちね、明日隣町に行くんだ」
「え」
「君とはもう会えなくなるだ…」
「そんな、そんなのヤダよ!」
「ごめんな、どうしよもないんだ市から苦情が来てね」
「そんな…」
みんながいなくなる?私はどうしたらいいの…。
泣きじゃくる私にふとあの時の梅田さんの言葉がよみがえる。
私は一人じゃない…。
どんなに遠くにいても、私たちは仲間…。
梅田さんそういうことだよね…
あれから数年たった。
私はビジネスマンとして働いている。
仲間たちと企画を作るのは楽しい。
今があるのは、梅田さんのおかげだ。
あの時のあの言葉が私を救ってくれている。
「私は一人じゃないよ」