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 ある侯爵家の一室で。


「それで、小娘にしてやられておめおめと戻ってきたという訳か、シュバッテン子爵」


「お、恐れながら、あの病を感染させると決められた時にこのような可能性はあったかと……」


「ほう? 地方の病であればそう簡単に王家に仕える専属医でも治せぬと言ったのはお前だったな」


「そ、それは……。しかし、なぜ殿下の治療を行うのです? そのまま、治らねば良いのでは?」


「確かにマーセル殿下は聡明で、我ら貴族派の障害となるだろう。しかしだ、仮にカルザス殿下が王位についてみろ。あの武闘派の殿下のことだ、何かあるたびに貴族派の我らを粛清しかねん。マーセル殿下はそういったことに関しては慎重だからな。病を治し恩を売れば、貴族派の勢いも増すというものだ。我らの目的は王家に入り込むことだが、鋭すぎてもいかんのだ」


「ですが、どういたしましょうか? 次の病を用意するにも、殿下もより慎重をきたすのではないかと思うのですが……」


「当たり前だ! 全く、折角のチャンスをふいにしおって。全く、このような男ならリサリーを嫁にやらなかったものを……。婚約をねじ込んでやった恩を忘れたか!」


「まあまあ、侯爵様。シュバッテン子爵も今回のことで反省しております。どうか彼にもう一度チャンスを与えては?」


「ベンパー伯爵。甘いのではないのか?」


「いえ、何も今回のようにぬくぬくと出来ることではありません。この魔道具を使うのです」


 そう言うとベンパー伯爵は一つの腕輪をテーブルに置いた。


「これは?」


「魔物へと変化する魔道具ですよ」


「な! そ、それを私が使うのですか!?」


「ご安心ください、シュバッテン子爵。これは私が抱える魔導士が改良を行ったもの。きちんと時間が経てば戻りますよ」


「そ、それなら安心だな」


「侯爵様もよろしいかな?」


「そういうことならよかろう。シュバッテン子爵、今度こそ成功させよ」


「では、概要を。今度、グラハム公爵家にて公爵の誕生パーティーが行われます。これには陛下も出席なさるということです。恐らく、マーセル殿下の病のことは公表なさらないでしょうから、殿下も無理を押して出られるかと思われます。そこでこの魔道具を使用して、シュバッテン子爵が会場で暴れるのです」


「そ、そんなことをして大丈夫ですかなベンパー伯爵?」


「ええ。何かあろうとグラハム公爵家の責任になりましょう。彼は根っからの王族派。たとえ、首謀者が別にいようとも、王族が害されたとなれば処罰は避けられないでしょう」


「なるほど。今回は我らが功績を上げようとしたが、今度は対抗勢力の評価を落とそうということだな」


「左様です。陛下とて王族派の筆頭であるグラハム公爵を庇いたいでしょうが、被害が出てしまえばそうも言えぬでしょう」


「だが、当日は公爵の精鋭と近衛兵が警護につくのでは? この魔道具一つで大丈夫ですかな?」


「複数持ち込みたいところですが、当日の警備は厳しくこれ一つを持ち込むのが精いっぱいでしょう。ですが心配はいりません。これにより変化できる魔物はデスドラゴンです」


「デスドラゴン!? あのリッチと並ぶ、アンデッドの上位の魔物か!」


「しかし、魔物を呼ぶのはその魔物の一部が必要なのでは?」


「もちろんです。今回、冒険者ギルドよりそのデスドラゴンの頭部を手に入れられましてね。本来はもう少し早く入手できるはずだったのですが、最近討伐されることが少なくなっており、時間がかかりました。おい!」


 ベンパー伯爵が声を上げると控えていた従者が大きな箱を持ってきた。


「これは?」


「デスドラゴンの頭部を圧縮したものです。これと先程の魔道具を使って儀式を行い、起動させるのです」


「なるほどな。しかし、討伐されたということだが、大丈夫だろうな。万が一、その場で倒されでもしたら……」


「心配ございません。もう数か月、これを討伐した冒険者もダンジョンに来ていないようです。以前は定期的に来ていたようですが……」


「死んだのか?」


「そこまでは……。しかし、噂によると他国にあるリッチの出るダンジョンに行ったのだとか。たとえ、アンデッドとはいえここまで高位の魔物であれば近衛と言えど、専用の装備を持ち出さねば勝てぬでしょう。かなりの被害を当日はもたらせる筈です」


「そうか、では頼むぞシュバッテン子爵。今回の計画見事成功して見せよ」


「はっ!」


「では子爵殿。こちらは当日お渡しいたしますので」


 その後、子爵が出て行くのを見送る二人。


「それで、ベンパー伯爵。本当に魔物化したのちに戻るものを作れたのか?」


「まさか! そのような魔道具があるのなら苦労は致しません。もしあるとしても、高難易度ダンジョンのレアドロップでしょう。子爵にはもったいないですよ」


「そうか。そんな便利なものがあるならと思ったのだが、やはりな」


「まあ、彼は功績も目立ったものがありませんし、今回のことで地位も失うでしょう。最後に役に立ってもらうとしましょう」


「ところで、デスドラゴンだが理性はあるのか?」


「難しいでしょう。元々知能が低い魔物ですからな」


「当日はあまり近寄れんな」


「しかし、不自然に距離を置くのも難しいかと」


「全く、こんな手を使わねばならんとはな」


 こうして陰謀の夜は更けていく……。




 あれから薬を作った私は、専属医様とともにマーセル殿下に薬を渡した。殿下は薬を飲んでしばらくすると発熱や発汗が続いたが、その日の夜には容体が安定したらしい。


「殿下から文が届いた。病状も回復して、何とか来週のグラハム公爵家のパーティーには出席されるようだ」


「もうですか? 数日寝込まれていたのですし、休まれた方がよいのでは?」


「本来ならな。しかし、グラハム公爵家は王族派の筆頭。王家との関係も強く、陛下も出席なさる。ここに次代の王であるマーセル殿下が出るのと出ないのとでは諸侯の判断も変わってきてしまうからな」


「でも、病気だったんですよ?」


「それも公表できないだろう。次の王にケチが着いてしまうからな。そうでなくとも貴族派が調子づく理由になる。今後数年の内には退位と即位が行われる公算だ。不安は取り除いておきたいだろう」


「大変なんですね」


「そうだな。だが、アーシェも大変だぞ?」


「私ですか?」


「ああ、侯爵家もマーセル殿下にはよくしてもらっているからな。王族派として情けない姿は見せられない。そういう訳で練習に行くぞ」


「はい」


 今日も今日とてユリウス様に連れられてダンスの練習をする。午後からはいつものようにポーション作りだ。


「そうだわ。今日は栄養ドリンクを作りましょう!」


「栄養ドリンクですか?」


 私についてくれているメイドが首をかしげる。まあ、馴染みのないものだろうからピンとこないわよね。


「ええ。ちょっと、材料は高くつくんだけれど、一時的に体調を整えてくれる飲み物よ。昔、作った薬で体力の消耗が高いものがあったので、研究して作ったの。殿下に飲んでもらったらいいと思って」


「殿下? マーセル殿下ですか。ですが、特にご病気ではないはずですが?」


「そうなんだけど、殿下も視察とかで忙しいとユリウス様から聞いているし、念のためにね」


 危なかったわ。殿下の病気は邸の人間にも秘密なのだったわ。それから材料を用意してもらって、ドリンクを完成させる。


「出来たわね。とりあえず、三本作ったからユリウス様にも渡しておきましょう。一本は貴女にあげるわ。あんまり使ってほしくないけれど、傷むから一週間以内には飲んでね」


「よろしいのですか?」


「ええ。効果だけでなく、味についても意見を頂戴。高いものだから、安くするのと飲みやすくしないと商品にならないの」


「販売なさるのですか?」


「うまく行ったらね。ポーションだけでなく、こういうのも売られたらみんなも助かるでしょう?」


「それはそうですが、なにもお嬢様が作らなくとも」


「調合のスキルもあるし、あまり社交も得意ではないからこの方が時間も使えていいの」


「では、飲みましたら感想をお伝えしますので」


「ええ、よろしくお願いね。私はユリウス様に渡してくるわ。ちょうど、明日はマーセル殿下にお会いするそうですし」


「お預かりいたしますが?」


「ううん。伝えたいこともあるから自分で行くわ」


「そうですか、ではご用意いたしますので」


「家族なんだからこのままでいいわよ」


「いえ、薬草というか薬品の匂いが……」


「そう? 気にならないけど」


「お嬢様は慣れていらっしゃいますが、結構臭いますよ」


「分かったわ。じゃあ、お願いね」


「はい」


 メイドに着替えさせてもらい、簡単な香料をつけて準備完了だ。香料といっても、自分で調合した清涼剤だけど。普通の香水だと、薬品の臭いと混ざってとんでもないことになるからね。


 後日、メイドから栄養ドリンクについて感想をもらった。効果はすごくて疲れが吹き飛んだと言ってはくれたけれど、味については後味に変な苦味がしたとのことだった。これはまだまだ改善の余地があるだろう。材料も含めてね。




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