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 庭園といっても目立たないところまで来ました。流石にこの辺には誰もいないみたいですね。これでゆっくりできるかなと思っていたのだけど……。


「あら、アーシェでしたかしら?奇遇ねこんなところで」


 音がしたので振り返ると、四名の令嬢がそこに立っていた。


「あの……失礼ですがどちら様でしょうか?」


「流石に平民ね。私たちも知らないなんて。私はエスレーデ伯爵家の長女、カレン・エスレーデよ」


「私はシュバッテン子爵家の次女、エカーテ・シュバッテンよ」


 それ以後も二名の令嬢に挨拶されたのですが、あまりのことに聞きそびれてしまいました。というか、エスレーデ伯爵のご令嬢が一番身分が高いようですが、そんな態度で大丈夫なのでしょうか? 一応私の方が身分は高いのだけれど……。


「何か言いたいことでも?」


「いえ、申し遅れました。私はアーシェ・ティべリウスと申します。よろしくお願いいたします」


「ふんっ! 平民ごとき卑しい血の持ち主が侯爵家に取り入って生意気なのよ! さっさとここから出て行きなさい!」


 ええっ!? そう言われても、この家へ養子に来たのはティべリウス家のお誘いになるわけだし……。急な出来事におろおろしていると、向こうから人影がやって来た。


「何をしている?」


「ユリウス様、どうしてこちらに?」


 そこに現れたのはユリウス様だった。でも、こんな敷地の外れにどうしたのだろうか?


「あら、ユリウス様。良いところにいらっしゃいましたわ。この女狐めを注意していたところでしたの。ユリウス様も大変ですわね。このようなどこのものとも知れぬ下賤な輩が家にいては」


 シュバッテン子爵令嬢がそう言うと、エスレーデ伯爵令嬢も続く。


「そうですわね。こんなところにいては空気も汚れてしまいますわ。さあ、あちらに行きましょう」


 うう~ん、これが貴族特有のいびりなのでしょうか? でも、何だか寒くなってきたんですが……。よく見れば、ユリウス様から冷気が漏れ出している。魔力が高くコントロールも良いという話だったのにどうしたのでしょう?


「ほう。貴女たちはその者の血が汚れているというのか?」


「まあ、血筋も分からぬ輩ですもの」


「それはよいことを聞いた。我が父の弟に当たる方と、シュトライト男爵家のどちらの血が汚れているというのか教えてもらおうか」


「ひっ! な、なにを……」


「もう一度言う。我が父と同じ血を持つその弟か、シュトライト男爵家。どちらに不満があるというのだ。我が家は元よりシュトライト男爵家は王国建国時には騎士として幾度の戦禍を越え、以後も仕え続けた。後には王族の危機に身を挺してかばい、その功にて男爵家となった家。人にどうこう言われる血筋ではないが。失礼ながら、シュバッテン家は三代前には商家の家柄。よほど血筋については怪しいと思うがな」


「そ、それは……失礼いたしました!」


 そそくさとご令嬢方が退いていく。それとともに辺りに立ち込めていた冷気も引いて行った。


「ユリウス様、ありがとうございました」


「いや、あのようなものは好かん。それよりもだ、貴族社会に慣れていないうちから一人で動くな。私と一緒にいろ」


「は、はい。ご迷惑をおかけします」


「そういうことではない。心配だろう」


 私は本当に良い家に来たみたいだ。あんな家族ならいらないけれど、こんな暖かい家族に囲まれて……。それからもう一度、パーティー会場に戻って過ごした。さっき来ていた人たちは顔色が悪いみたいだったけど、気にしないようにしましょう。今から仲良くしようって言われても正直、そんな気持ちにもならないですし。


 こうして初めてのパーティーは終わった。大きな問題もなくきちんと行えたと自分では思っています。ただ、あまり他の家の人とは話が出来なかったので、それは今度の課題ですね。一先ずはやり終えたので、成功といっていいと思いますが。それから、私にはちょっと変化ができました。


「ほら、そっちの足じゃない」


「は、はい。すみません、ユリウス様」


 あれからもパーティーに出席するためユリウス様とダンスの練習をしているのです。他にも冒険者時代にやっていたポーション作りも頑張っています。パーティーの時にユリウス様に助けていただいて、少しでもこの家の役に立てればなと思うようになったからでした。


「貴族の家なら素材だって簡単に集まるのはよかったわ」


 冒険者時代はギルドに必要な素材を言うのはもちろん、一定量の低ランク素材も引き受けなければならなかった。曰く、Cランクの薬草が要らないと言われても余ったら処分に困る。Bランク以上のものを渡すには引き受けてもらうぞ。とのこと。

 ところが貴族の指名依頼ならBランクのみでも文句を言われない。Cランクが大量に余るという話は、王都周辺の新米薬師へ優先的に流すことで決着させた。まずは下位素材で色々作ってみてほしいですし、正直、私の腕でBランクの薬草を使えば中級ポーションが七割程度の確率で製造できる。大体、五割を越えれば合格と言われていから問題ないはずです。


「でも、朝から晩まで作ってると疲れますね」


「お嬢様。そろそろお休みになっては?」


「そうするわ。今日だけで三十本も作ったもの。もういいわよね?」


「いいというか、巷でも値段と品質のバランスが良いと評判のようです」


「それはうれしいわね。買うということはケガしているということだけれど、それなりの効果はあるわけですし」


「お嬢様は冒険者時代けがをされなかったのですか?」


「ええ。安定した稼ぎの場所もあったから。そういえばあのダンジョンにも最近行ってないわね」


「おやめください。流石にダンジョンに潜られては私たちが怒られてしまいます」


「あそこなら大丈夫だと思うのだけれど……」


「ケガは乙女の肌には厳禁です」


 はぁ、そんなに危険ではないのだけれど。まあ、ダンジョンのランク自体も低いわけではないから難しいわよね。諦めて休憩を取る。そうこうしていると、来客が見えた。


「あら、あの馬車は何かしら? 立派な馬車のようだけれど……」


「本当ですね。あれは……王家の紋です。お嬢様、すぐにご用意を!」


 門で止まった馬車の家紋を見たメイドが慌てて着替えさせる。というのも先触れの無い来客だが、逆に誰への用事か分からないため、みんな用意をしないといけないとのことだ。


「他の者にも知らせてまいります。すぐに戻ってきますので」


 こうして、突然の来客によって私の休憩は取りやめとなってしまったのだ。それからは忙しく動き回るメイドたちと私たちだった。


「ささっ、お嬢様も早く客間へ」


「は、はいっ」


 てきぱきと作業してくれたメイドさんたちのお陰で、何とか使者を待たさずに済んだ。


「お待たせいたしました」


「いえ、こちらも先触れも出さずに申し訳ない。ですが、急用でして。して、侯爵様は?」


「父は現在、所用で王都を離れております。父にご用でしょうか?」


「いや、もしおられたらというだけだ。予定では不在であることも陛下はご存じである。では、ユリウス様とアーシェ様。お二方には王宮に来てもらいたいのだが……」


「わ、私ですか?」


 どういう要件だろう? ユリウス様は次期侯爵なので分からなくもないけれど、貴族になって日も浅い私が王宮になぜ呼ばれるのだろう?


「左様。何か予定がおありで?」


「いえ、予定はありませんが……」


「使者殿、アーシェはまだ貴族として日も浅い。不始末をしでかすかもしれん。何の用か教えていただけませんか?」


「私も呼ぶようにと仰せつかっているのみで詳しくは……」


「アーシェ、行きなさい。陛下が望まれているのであれば、臣下としての務めです。大丈夫、あなたならもう立派な貴族よ」


「お母様、わかりました。どういった要件かは存じませんが、精一杯務めを果たしてきます」


 何気ない一日だったその日が特別な一日に変化した。そして私はユリウス様とともに使者の乗ってきた馬車で、王宮へと向かったのだった。



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