放課後屋上の隅で
美少女な後輩にラノベを貸してしまってから数日たった。
あれから美少女後輩と話してはない。
それに、美少女後輩は屋上にも現れていなかった。
まあいくらなんでも数日間くらいは、告白されない日が続くことはあるだろう。
そんな僕は、少し気になることがあった。
どこかで見たことのある人だと思っていたのだが、あの後輩、実は知っている人だったのだ。
親しいわけではなかったが、おそらくあの人。
中学の時、同じ塾だった人である。
僕が中学の時に高校受験のために通っていた塾の自習室は、かなり荒れていた。
どう荒れていたかと言えば、もう好きなことし放題になっていたのである。
そんな中、一人で黙々と勉強していたのが、彼女だった。
しかし、彼女は、明らかに不登校だった。
制服で塾に来ていたことが一回もなかったし、お昼から塾にいることもよくあった。
まあ、それは僕もよく学校をさぼる人だったから知っているわけだけど。
そんな彼女と、昼の自習室で二人きりになる時、時折話していた。本当に時折だけど。話していた内容もありきたりの話ばかりだった気がする。
ある日塾に行ったら、彼女は一人で机に突っ伏していた。
寝ているだけだと思ったら、なんか泣いているのかうめいているのか、わからない状態になっていた。
もしかしたら体調が悪いのかもしれない、と思って、話しかけてみたのだ。
そしたら、彼女は一言だけこう言った。
「もう、忘れたい」
一体あれはどういう意味だったのだろうか。
やはり当時はなにか人間関係が大変だったのだろうか。
そうだろうな、可愛くてモテるがゆえに苦労することもあるかもな、で片づけることもできる。
しかし……やはり気になった。
と、その時、僕は肩をたたかれた。
振り向くと、山本さんだった。
「ねえ、あの子……美津島愛花がね、あなたと話したいって」
放課後、僕は屋上に来ていた。
本を読む目的ではない。
美津島愛花と話すためだ。
「お待たせしました」
僕のいる屋上の隅に、よく屋上の真ん中にいる女の子がやってきた。
「こんにちは」
そのことに戸惑ってしまい、とりあえず挨拶をした。
「あの、えと、どう話しましょう……」
美津島は、迷っていた。
僕は待つ。
屋上には多くの人がいる。けど、隅のことを気にする人は、あんまりいない。
美津島は再び口を開いた。
「あの、私、忘れちゃってて」
「忘れてた……? あ、もしかして、中学の時、同じ塾だったこと?」
「あ、そうです。でも、それだけじゃなくて」
「え?」
「私、中学生の時の記憶、すべてがなかったんです」
そう、美津島は苦しそうに言葉を吐いた。