私の天使 ーサラン視点
私は孤児院で生活していた。王都の端にある小さな町で治安がそこそこ良かった。一緒に住んでいた先生も優しくて、勉強を教えてくれたり、将来困らないようにできるだけのことをしてくれた。だがある日先生は病気になって孤児院を離れなくてはならなかった。その後、国から派遣されたという30代くらいの裕福そうな男性は先生とは比べ物にならないほど酷かった。身寄りがない私たちは逃げられないとわかっていた為、日常的に暴力を振るってきたり、食事を与えてくれず先生がいた頃に比べ、将来への期待や人生の楽しみがなくなっていた。
ある日、その男性は私たちに先生が死んだことを大きな声で嬉々として言い捨てた。その瞬間から、私たちは絶望を思い知ることとなる。その日を境に、孤児院の子供達が消えたりするようになった。私はその頃には子供達が人身売買されていることに気づいていた。だが、毎日を生きるのに必死だった為に助けを求めることもなければ助けようともしなかった。
そして、私が13歳になった時名前も知らない男性が私の元に来て何も言わず馬車の中に連れて行かれそうになった。必死で抵抗した。しかしその時私は悟った。ああ、私もどこかに売られるのか。と。
その時、貴族のと思われる馬車から小さな女の子が出てきた。私が抵抗しているのに気づいた、貴族の騎士が助けてくれた。そして、小さな女の子は私を馬車に乗せ彼女の家に連れて行かれた。馬車の中では何も言われず、聞かれず彼女は手を繋ぎニコニコと笑い私は少しだけ穏やかな気持ちになった。大きなお屋敷につき、そこで今の雇い主である旦那様にお会いしたと共に、小さな女の子は私を専属侍女にして欲しいという。私は戸惑った、何故そこまでされるのかと。
後に聞いた話だと、ただ綺麗だったからだと。むしろお嬢様の方が可愛く、天使様のようです。
何故か、私は雇われることになった。雇われるにあたって『影』で研修をして、お嬢様を守るための護衛術を習得する必要があると言われたが、そんなことよりお嬢様が私を忘れてしまうのではないかという心配の方が大きかった。4歳であるお嬢様はもしかしたら私が戻ってきた時に必要としてくれないのではないかと不安になった。
研修を1年ほどで終わらせ、シアーズ邸に行くとお嬢様の他に2人の御子息がいた。少し前に養子に入られた御兄弟でお嬢様との仲は可もなく不可もなくと言った感じだった。兄であるリオン様は7歳ながら大人びていて、弟であるリント様は4歳でまだ幼かったためシアーズ家に馴染んでいた。
お嬢様は1年経ってもやはり天使のように可愛らしく、私が死ぬまでお仕えしたいと思うほどで。
ですが、6歳になったある日屋敷の廊下でお嬢様が倒れており10日ほど目を覚まされず、お医者様でさえ原因が分からない状態で生きた心地がしませんでした。
目を覚ましたお嬢様はいつものように可愛らしい天使様なのですが、いつもと違う雰囲気を醸し出しておりました。どんなお嬢様でも私の可愛いお嬢様なのですが旦那様たちに敬語を使ったり、私に剣術や武術を教えて欲しいと仰ったり今までのお嬢様とは思えない言動や行動に、いつ何時も無表情でいなければならないのに動揺してしまい顔を作るのが大変でした。
翌朝のトレーニングは初心者には普通無理ですがお嬢様はやってくれました。広大なお屋敷の周りを2周しかもそれを90分で。しかも手作りの模擬剣を受け取ってくださいました。これが毎日続くのかととても楽しみです。
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サランはいつも以上の気合いで仕事に励み、その日夕食時ユナの容姿の変化にもっと気合いが入ると同時に内心可愛さに悶えるのであった。