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串リンガ

 やっぱりこのぐらいの年齢の子は子供扱いされたりするのを嫌がるのが普通なのだろうか。そういえば弟もことあるごとに「子供扱いするな」と顔を真っ赤にして怒鳴っていた。

 茜の弟の楓はすぐに手が出る子だ。そのころにはすでに茜は合気道を習いにいっていたためいつでも床に転がっているのは楓の方だった。

 そうして怒鳴っている事自体が子供だという証拠でもある。

 それに比べてアイヴァンくんは、子供扱いが嫌だ、という気持ちはあるようだがそれを咎めたりしない。かなり大人の対応だ。

 これは子供扱いしないほうがいい、のかもしれない。少なくとも怒ったり怒鳴ったりするような幼い精神ではない。


 ふと、アイヴァンくんの手になにかがある事に気付いた。もしかしてこれを買いに行ってた?

 それが何か茜にはわからない。

 見られていることに気づいたアイヴァンくんは、ぎこちなく左手を差し出した。


「あの、これ……よかったら」


 こぼれ落ちそうな青い眼が、控えめに茜を見る。

 ありがとうと受け取ったはいいが、その半透明な飴色のゲルに包まれたものが珍しくてしげしげと見てしまう。中に入っているのはなんだろう?


「あ、と、中のこれはフルーツのリンガです。以前お見舞いに行った時にフルーツが好きなのだとお聞きしたので……」

「へぇ、フルーツ! ここで食べてもいいんでしょうか?」


 豪快に串にささっているから、食べ歩きしても良さそうに思えるが、こちらの作法がわからないのでアイヴァンくんに尋ねる。

 

「あ、大丈夫です。今食べられるように持ち手を刺してもらったんですよ」


 アイヴァンくんは何やら手慣れている。

 結構こういう買い食いとかするタイプだったのか。

 思い切ってがぶりと齧り付く。甘酸っぱい真ん中のフルーツと適度に甘い怪しいゲルが合わさって美味しい。リンガのという名前からリンゴのようなものかと思ったが、食べてみるとバナナに近い。柔らかな果肉は自然の甘い味がした。


「おいしいです! ありがとうございます」

「いえ、これは僕が好きなものの一つなんです。ここの店は売っている場所が少し奥まったところにあるので、万が一危険があるといけないと思って待っていてもらったんですが……逆に危険に晒してしまったようで……すいません」


 アイヴァンくんの顔には反省している、と顔にデカデカと書いている。


「いえ、待っててと言われた場所から離れてしまったから、変に絡まれてしまったみたいで……もうしわけありませんでした」

「いえ、そんな! 大事がなくてよかったです」


 茜と同じようにリンガを齧りながらアイヴァンくんは、意を決して、というふうに再度口を開いた。


「先ほどの……あの男はどうやって捻り上げたんですか?」


 ヤバイ、もしかしてさっきの合気道の動きはこちらではあまり行わない武術だっただろうか。

 どっと茜の背につ、と冷や汗が出てきた。

 

「え、と……とっさに身体が動いて……?」


この世界に相手の力を利用する形の格闘術があるのかわからない。嫌な汗が背中を流れ落ちるのを感じながら、茜はあはは、と愛想笑いを浮かべた。

 アイヴァンくんは、茜の言葉を聞いて元々大きな目をまたさらに丸くする。

 青い目っていうのは本当に透き通ってビー玉みたいだな、と思う。それを縁どる睫毛は黒いものだから、アニメのキャラクターみたいだ。


「身体が勝手に? 記憶を失うまえになにか護身術でも習っていたんでしょうか? 咄嗟に行動できるなんてかなり練習したんでしょうね……」


 ちら、と青い透き通った目が茜を見る。


「リッチェル様が護身術を習っていたなんて知りませんでした」


 これはなにかを疑っているわけではないよね?

 ここで記憶喪失がいいように作用したんだよね?

 身体が勝手に動く=身体が動きを記憶していた、っという図式だ。はぁ、よかったなんかうやむやに出来たみたいだ。


「でも、やっぱり危ないので今度なにかあったら、周りに助けを求めて下さいね」


 助けを求める勇気よりも、相手を自分で相手する方がいいと思っちゃたんだもんな、仕方ない。

 けど、よく考えてみたらこの世界には魔法があるんだから、相手が魔法使ってきたら危なかった。

 次からはより気をつけなければいけない。


「では、改めて学校へと向かいましょう」


 先ほどまで申し訳なさそうにしていたのにアイヴァンくんはすでにそのことを忘れ去ったかのように自然な笑みを浮かべている。

 まだ近くの床に転がったままの不審者どもは放置するらしい。

 私は異論なく、アイヴァンくんの背を追う。左斜め後ろ。そこが会話もしやすいし、姿を追いかけやすい。


 二階へ続く階段はかなり広かった。

 ベルベットのようなやわらかな布か敷かれた階段の手摺りの材質は木に似ている。

 転移するための待機列に並ぶ。通学ラッシュの時間帯なのだろうか。並ぶ列はほとんどが制服を着た人間で出来ている

 あまり年齢は関係ない、と教わってきたが並んで売るのはいずれも年若い人間ばかりだった。

 

 学園行きの魔法陣はピンク色に発光していた。

 茜には読み解けないぐにゃぐにゃした文字が魔法陣の中の円を隙間なく埋めている。

 

「陣のなかで立つだけでいいですからね」


 不安が顔に出ていたのか、近くにいたアイヴァンくんが手順を説明してくれる。

 発光している魔法陣に足を踏み入れ、陣の中で数秒じっと立っているとそのまま移動できるのだそうだ。

 移動したら、頭の中で音が鳴ると言う。

 頭の中ってなんだ。なんか怖いな。

 はじめての体験に無言になってしまった茜にアイヴァンくんは「俺も一緒なので大丈夫ですよ」と言ってくれる。

 はにかんだ笑みを浮かべたりして、天使じみた後光がみえるようだった。

 なんていい子なんだろう。

 どうしてリッチェルがアイヴァンくんにキツく当たっていたのか本当に謎である。



 

次こそ学校に着く予定

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