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そうです、ノートです


 心なしか空気が美味しく感じる。

 気にしていないつもりだったけれど、結構気にしていたみたいだ。


 もう少しすれば学校に行けるようになる。

 懸念していた案件が案外あっさりと決まったため、今日はご機嫌そのものだ。 

 鼻歌を歌いだしそうな陽気な気持ちで廊下を歩く。五日後学校に行ったら調べたいことを箇条書きにしておくことにする。何事にも下準備は大事だ。

 自室の机の椅子に座り、机の中から何の変哲もない白い紙束を見つけて机の上にだす。

 机の上に置かれた透明のペン立てには赤と青のペンが一本ずつ置いてあった。

 青いペンを手にして紙に書き始めようとしたところで、妙な違和感に気づいた。

 メモするのは後回しにして、椅子から降りる。

 机の引き出しという引き出しを開け、ベッドサイドの引き出しも開ける。

 クローゼットの中、カバンの中などを確認してからベッドの端に座った。ふかふかのベットは音も立てずにリッチェルの体重に沈む。茜が感じた違和感を一つ一つ思い出しながら瞼を閉じて考える。

 

 この部屋、私物がまったくない。


 着るものや履くもの、装飾品などは置いてあるが、そのほかの彼女が好きだったものや思い出の品などといったものがひとつも存在しないのだ。

 たとえば人形とか。

 手紙とか。そう、例えば私がアイヴァンくんからもらった音の出る箱。そういう実用性はないけれど持ち主の好きで置いているもの、というのがまったくない。


 十七年。

 十七年も同じ部屋にいてこれほどまでに所有物がないというのはなにかおかしい。

 

 趣味嗜好の欠如したシンプルすぎるペンをもう一度見る。メタリックな赤と青。言うなれば社会人が使っていそうなシンプルさがある。

 状態はかなり綺麗だ。

 新品と言ってもいい。

 ……まるで新しく買って来たばかりみたい。

 そこには自分の使っていたものを茜に使われるのを嫌がるような雰囲気を感じる。


「……」


 せわしなく部屋の中をうろついて、結果としてもう一度机の引き出しを開けた。

 一段目二段目と中身が空っぽの引き出しを引っ張っていると、その重さの違いに気づいた。

 ……一段目の引き出しが二段目の引き出しよりも重たい。微々たるものだが、確かに一段目は少しだけ重みがあるのだ。

 昔読んだあの漫画みたいに引き出しの中に何か細工が施されていて、誰にも気づかれないようにノートかなにか……置いてあったりしないだろうか。

 取り出し方までは覚えていないけれど、要は引き出しの底板の上にもう一枚底板を重ねて見えないようにしている、ということだろう。

 慌てて一段目の引き出しを引っ張り出した。

 取り出し方はわからないが、板の下になにかがある。

 蓋になっている板を上手に取れば……と挑戦してみたがうまくいかない。爪を隙間にいれて引っ張ってみたり、逆さまにしてみたりと工夫してみたが一向に板が外れる様子はない。

 がりっと爪の先が割れる。


「…………いたい」


 爪の間から血が滲んでくる。怪我をすれば痛みがあり、血が流れる。そこのところは地球とかわらないのか。しかし痛いなおい。

 業を煮やした私は実力行使に出た。


 がったーん


 部屋の中いっぱいに音が響いた。

 引き出しは見事にばらばらになっている。

 力任せにたたきつけられた引き出しは無残な姿となって床に横たわっていた。

 会えなくパーツに戻ってしまった引き出しの板の隙間から白いものがちょん、と飛び出している。

 やっぱり、という気持ちでそれを取り上げる。


「これは!」


 青い表紙のノートが出てきた。

 表紙にはタイトルらしき文字が書いてあったが読めない。

 中を開くとまた見たこともない文字が並んでいる。日常的に使われている文字とは異なるものだ。異国の文字かもしくは古代文字というやつかもしれない。

 日付があるところを見ると日記帳だろう。しかしなんでこんなに厳重に隠す必要がある?

 私は丸みのある文字をにらみつけた。何がかいてあるのか学校で調べる必要がある。

 

 部屋の近くを掃除していたメイドさんに話しかけると、手を止めて聞いてくれるので礼を言う。

 この家には何人かメイドさんがいるが、リッチェルの周辺でお世話をしてくれているのは彼女が中心だった。

 まだ若い……名前は……忘れてしまったし、もう一度名前を聞くのも失礼だよねぇ。


「何か問題がありましたか?」


 メイドさんは何か不手際があったのかと不安に駆られている。


「ちょっと聞きたいことがあって……。私が記憶喪失になる前になにかをしようとしていたのは覚えているんだけどなにをしようとしていたのかわからなくて……心当たりがあれば教えて欲しい、と思って……」


 困ったように見える表情を作りながら、俯いて見せる。記憶喪失というのはなにも好きでなるものではない。それは周りの皆も理解している。

 記憶がないことを気に病んでいる風に装えば、倒れる以前の行動をききだすことはたやすい。

 忘れていることを思い出したいのだといえば、はとんどの場合はなにもかも忘れているなんてかわいそうだし、少しだけでも手伝ってあげたい、という気持ちになるというものだ。

 案の定人の良さそうなメイドは、

「そうでしたか……。思い出さなくても気に病まないでくださいね」

と、励ましの言葉すらくれた。


 曰く、リッチェルは自分のものをしきりに処分していたという。


「もうすぐいらなくなってしまうから」


 という理由で両親からの誕生日プレゼントなども売り払ってしまったのだという。

 なんだか怪しい。怪しすぎる。


「いくらなんでも親からの誕生日プレゼントを売らなくても……と言ったんですが、まとまったお金が必要とかで……親にも言いにくい使い道だったようで自分のものを売ってしまわれたんだと思いますよ」

「お金……なにに使っていたのかしら?」


 いいとかのお嬢様が買う大きな買い物なんて全然想像つかないけど。しかも親にも言うにははばかられるもの? 

 なんだよ。わからんよ。

 なんかやばいことに足突っ込んでたりしないだろうな、おい。


「どうでしょう、それは教えてもらえませんでした。服飾にかかるお金はお父様が支払ってらっしゃいますし……お役に立たず申し訳ありません……」

「いえっ、話してくれてありがとう。すごく役に立ったわ!」


 何かを買うためにお金が必要と言っていた割には部屋の中にそれらしきものはなかった。

 そんな高価なものなら盗難を心配して手元に置いておきたいのが人間心理だよね。

 でも、この部屋にはない。

 どこか別の場所に置いているんだろうか。

 高価なものだというが、誰かにとられてしまう心配のいらないものだったのかもしれない。

 ますます謎は深まったけれど、調査は進んでいると言える。

 


 だよね?





恋愛部分が全くすすまなくて申し訳ない…

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