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先行投稿しているアルファポリスとは話数が異なります
「遥! あんたが私の体を取り返すのよ!」
ビシッと力強く指をさされた。
全然姿形は違うのにそれはまさしく茜そのもの。
うーん、もうなにもわからんし、この金髪茜も要領が得ないし……?
「あー、つまり? 俺がこっちでなんかしたら茜は元に戻れるのか?」
俺はぼりぼり頭を掻いた。
「話がはやすぐる、さすが遥」
この金髪の儚げ顔で茜の図太い感じが入っているとものすごいチグハグで奇妙だ。
「なにすりゃいーんだよ」
遥はあえてソファの隣には座らず、ダイニングの椅子をひとつ引いて腰掛ける。中身が茜だと認定はしたが、そのガワはまったくしらない女のものなので、近くに座ることに、本能的に忌避感を覚えた。
ダイニングテーブルは金髪の女の姿が良く見える位置でもある。
金の髪はまっすぐに癖なく伸びていて、きちんとていれされていると一目でわかる艶を帯びている。
寝る時に着る服なのか、遥に夢で会うからと着てきた服なのかはわからないが、やけに高そうな生地を使ったそれを見るとお金に困っている訳でもなさそうで一安心ではある。
体が入れ替わりました、めちゃくちゃな生活をして苦労してます、死にそうです。死んだらもう戻ってこれません、なんてのは最悪だしな……
常に悪い選択肢を考えがちな遥は、細すぎるものの健康そうな金髪の女を眺めながら、テーブルに頬杖をついた。
「時間がないなら要件を早く言え」
効率を重視しがちな遥は、時間がないと暗に告げられるとあからさまに不機嫌になる。だらだらと会話して肝心の話が出来なくなるなんて言語道断。
「あ、そだそだ。私の部屋に【夢見香櫨】が置いてあるか確認してほしい」
ようやく本題を思い出した茜が、言う。
「なんだその【ゆめみごうろ】……って」
聞いたことのない単語に眉を寄せた遥は、耳で聞いたまま繰り返す。
「魂の入れ替えに必要なものなんだよ」
この茜は異世界の常識をこちらに持ち込んできているのになんの不思議でもなさそうな様子で言ってくる。
大体魂を入れ替えてなんか得があんのか?
この金髪の女は見目も悪くないし、お金持ちの家の娘みたいだし……将来安泰そうに思える。
茜と身体入れ替えてどうしたいんだ?
ここ2日の様子を思い出しても特になんにもおかしな行動はしていない。茜としてはおかしいけども……人としてはごく普通の生活だった。
「大体がよくわかんないベビみたいなとぐろ巻いた身体に、土偶みたいな上半身がついてるの。そんで、上半身と下半身の辺りで、ぱかって別れて頭の方は蓋、下半身は香櫨を置く場所になってることが多いね。煙は頭のてっぺんから出ていくんだよ。宝石とかついてる豪華なやつもあるみたい」
「あー、キメラみたいな感じってことか」
頭の中で想像してみるけど、どうも気持ちの悪い獣の合成にしかならない。女の子が使うものだからもっと可愛らしい感じか? とも思うが、遥の《かわいいキメラ》への想像力はかなり低い。
「うーん、ナーガみたいなやつ」
ナーガみたいと言われても全然わからない。
遥は詳細を聞くのを諦めた。とにかく蛇みたいなやつ、とだけ記憶する。
「でかいのか?」
「いや? 手のひらになるぐらいの大きさ」
茜はわかりやすいようにか、左手の手のひらを右手で包むようなしぐさをした。
「それを見つけてどうすんだよ」
「取り敢えず……そうだなぁ……別の場所に隠されたりしたら面倒だし、遥が回収して持って帰ってきてよ」
「取ってくるってことか。あんまり気が進まないな」
「そんなこと言ってる場合じゃないから」
やや声が冷たくなって、きっぱりはっきり言われると、そうするしかないんだなと諦めもつく。
「お前の部屋だろ、どこに置きそうとかわかんないのかよ」
「あー、私の部屋ガチャついてるからなぁ…大切なものなら見えるところに置くんじゃない? 机の引き出しとかぐちゃぐちゃだから」
「お前……今度ちゃんと掃除しろよ……」
汚部屋ではないらしいが、とにかく物が多いらしい。
「私以外にはいらないものだらけに見えると思う」
茜からすれば必要なものしか置いてないと言う。
……人はそれをゴミと言うんだよな……
遥が茜の部屋に入った時には特になんにも思わなかったから、茜の言う通り、引き出しやクローゼットの中がやばいんだろう。
そうなると置く場所は目の見える範囲内になってくる可能性が高い、か。
「……まぁ、起きたら忘れちまうかもしれないけどな、そんときはごめん」
起きても覚えてられるか、なんてわかりっこないが事前に謝りを入れておくべきだろう。遥はあまり夢のことを覚えていたことがない。確率は低いとみえる。
「いや、毎日夢に出てきてお願いするから大丈夫」
結構重い感じで謝ったのに、帰ってきた返事はめちゃくちゃ軽い。
「てかそんな感じなのかよ? もっと一世一代のチャンスは今しかないって感じで出てきてんのかと思うだろうがよ」
焦って話を聞いたのは一体何だったんだよ。
ふぅーと遥は長い息を吐いた。
安心したのかもしれない。忘れていてもまた夢で思い出せるという保証はでかい。
「いや、もう遥の夢と繋がったから。一回繋がったらこっちのもん。これから無限に夢に出続けるよ」
「それはもう悪霊レベルじゃねーか」
俺はおちおちと夢も見れないのか、と遥は嘆き、笑う。
「お、と流石にもう時間だ~! 朝かな? じゃぁしっかり頼んだよ!!」
「ぉお、やれるだけやってみる」
「やれ! 遥ならできる!」
「応援が雑なんだよな」
金髪の女が手を振っている。
だんだんと夢の色が抜けていき、真っ白になる。
遥はベッドの上で目覚めた。
ベッドサイドに開いた時計を見る。
たっぷり寝たはずなのに身体が重い。全然疲れが取れていない。
髪がボサボサで、色んな方向に伸びていっている。
背を伸ばすと、ぼき、と骨が鳴った。
「なんか疲れたな」




