【九十八話】第二王子様と第三王子様。
「キース、聞いて?」
私は、強く抱き留めるキースに呼びかける。
「……なんですか?」
「私ね、もう、第二王子様のお手つきなのよ?」
キースが十六歳になっても、もう私は彼には嫁げないと思う。
微妙な感じで清い身ではないというか?
「お手つきって、どういう意味ですか?」
「…………」
どういう意味って。
つまりはーー
彼の手が付いたって事よね?
それで合ってるわよね?
「第二王子様が手を出した令嬢ということよ?」
「生娘じゃないって事ですか?」
イヤ。
ごめん、生娘です。
「僕はーー王族では三男でした」
第三王子と呼ばれているからには、それはそうだろう。
「カールトン公爵家では上から四番目です」
うん?
どう話に繋がるの?
私が首を捻る。
「つまりは、お下がりには慣れているという事です。気にしません」
「!?」
ちょっと待て!
お下がりって!
第三王子様は三男で有らせられるが、お下がりなんか着てないでしょ!
と突っ込みたい。
いや、我が公爵家だって、キースにお下がりなんて使わせてないわ。
シンデレラは妹なので三人目の女の子という事もあり、若干お下がり感はあったかも知れないが……。
キースはない。
全然ないわよ?
公爵家の総領息子よ?
くだびれた服とか着ていたら吃驚だ。
イヤ、なんていうか、人に例えるのって微妙じゃない?
お下がりは、物限定で使うの推奨だ。
そこじゃなくって。
私が第二王子様のお下がりって、言葉凄いな。
「婚前なのよ? 一応そこまではーー」
していません。
と、言いたかったのだが……。
口に出そうとすると、なんだか具体的過ぎて恥ずかしい。
自分で振った内容なのに、自分で照れてどうする?
つまりはキスしたから、第二王子様のお手付きと言いたいのだが。
どこからお手付きかの判断は、主観なのかしら?
キスでお手付き?
生娘ではなくなる事が、お手付き?
「それならば、問題無いじゃないですか?」
キースは何故か嬉しそうにニッコリ笑う。
そこ、笑わなくて良い所よ?
「何があったかは分かりませんが、ルーファスお兄様はファーストダンスをミシェールお姉様と踊らなかった。フィラル王国第一王女と踊ったんですよ? 衆人環視の元。誰だって第二王子様の婚約者は王女様だと思いますよ。しかも、エスコートしてましたし」
そうなんだ。
エスコートして来たのね。
うーん。
ボディーブローね。
結構利くじゃないの。
「確かに、私は振られたのかも知れない。けどーー」
そう言った瞬間、涙が迫り上がってきた。
ヤバイ。
意外に堪えてるのね?
声が震えて喋れなくなりそう。
ピンク色のオフェリアが風に揺れる。
もう、王宮の庭には夜の帳が下りていて。
夜風が私の髪を浚う。
随分と奥深くに、ルーファスの楔が打たれている事を実感した。
キース。
可愛い可愛い私の弟。
そしてーー
ずっとずっと、変わらずに。
私の弟なんだと思う。
キースがどこかで泣いていたら、そっと抱き締めてあげる。
キースがどこかで、困っていたら、きっと助けに駆け付ける。
あなたがもしも落馬をしたならばーー
私もルーファスに泣き付くわ。
間違い無く、そうする。
約束する。
でもーー
随分と、深くに刺さってるじゃない。
ルーファス。
キースは、そっと私の体を離した。
そして、白いハンカチを取り出すと、私の涙を拭いてくれた。
誰にも見えないように、優しく拭いてくれたのだ。
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