【九十七話】姉弟のハグ
私の前世は日本人なので、姉弟でハグ? という感覚はないものの、洋画とかではやっているよね?
そういう種類のものは、強く引き寄せたりはしないと思う。
ソフトに抱いて、直ぐに離す。
でも、キースの腕は、結構強めにホールドしてます。
えーと……。
「キース、離れるわよ?」
「………イヤです」
「…………」
イヤとか言われても……。
うん。頃合いを見て離れないとだよ?
「けど、そろそろ離れないと」
「子供の頃は、そんな事、言ったことありませんでしたよ?」
「や、子供の頃はさ……」
「一晩中、抱いてくれました」
それ、抱いてるって言う?
寝てるって言わない?
ベッドの上で、ゴロゴロゴロぴた。
みたいなさ。
熟睡してるって言うんだよ?
意識、殆どないしね。
「姉弟だしさ、ソフトぎゅで行こうよ?」
「僕が十六歳になるのを待って、結婚する予定でしたけどね」
「………」
「そうしたら、姉弟から夫婦になるところでしたよね」
それはさ……。
知らなかった。
という言い訳は通るだろうか?
「予定は……そうだったみたいだけど……」
予定は未遂というか……。
想定外の事が……。
私が死にかけるという想定外の事。
いや、殺されかけたのだから、誰かに取っては想定内になる。
あの時、あの瞬間に、落馬をしなければ、私はキースと結婚していたのかな?
私も貴族の端くれだから、王家と父であるカールトン公爵が決めた事を、覆すような真似はしないだろう。
この少年と結婚していた?
ふと、彼の顔を見上げて気恥ずかしくなる。
弟と結婚!?
いや、いくら政略結婚と言えども、それはどうなの!
徹頭徹尾可愛い弟なのですが。
この子と、キスとかキスとかキスとかーー
考えられないっ。
政略結婚てそういうものなの??
「………あの、キース」
「なんですか? ミシェールお姉様」
「ちょっと、こんなこと聞くのはなんなんだけど、キースはお姉ちゃんとキスとか有りなの?」
いや。
そこ気になるよね?
大切じゃない?
だって私達、素で姉弟してたんだよ!
いや、マジで。
「今、して見せましょうか?」
や、ちょっと待て!
それはダメでしょ。
私が慌てていると、キースは少しムッとしたように言う。
「そもそも僕は、将来の臣籍降下を前提として、カールトン公爵家にいたのですよ? 最初からそういう目で見てますよね?」
「そうなの!? 三人とも!?」
キースは少し考えてから、口を開く。
「……まあ、オリヴィアお姉様だけは徹頭徹尾、綺麗で頼れるお姉様という感じですけど」
そうなんだっ。
オリヴィアお姉様だけは、その位置なんだ(泣)
少し悔しいって言うか。
大分悔しいって言うか。
複雑な心境です。
どうして私は、頼れるお姉様になり損なってしまったのかしら?
ちゃんと初日に宣言したよね?
キース、聞いてたわよね?
『 私はあなたのお姉様だから、何でも頼ってね』
というあの宣言。
「私は、キースの純粋な姉になり損なった??」
「……なり損なうというか、僕は直ぐに『ミシェールお姉様と将来は結婚』と決めてしまったので、姉にはならなかったというか。それが故に、オリヴィアお姉様は純粋に姉と見ていたというか……」
「そんな所です」と続けるキースに、私はちょっと呆然となる。
姉弟ごっごは一方的だったんですね?
「だからね。僕はミシェールお姉様とキスとか結構出来ると思います」
そう言って、弟は不敵に笑う。
だからね。
キース。
可愛い弟なのだから、そういう顔をしちゃダメなんだってば。
もっと純粋な感じで、微笑んでよ。