【九十五話】弟が大好きだった頃。
私は二人姉妹の次女だった。
けれど、お母様が再婚したから、別腹の妹弟が出来たのだ。
下に妹弟が出来たのがとても嬉しくて、飽きもせずかまっていた。
特に弟は六歳だったから、幼さが残っていて、よく面倒を見ていた。
「キース、何でもお姉様に聞きなさい」
「そういう時は、こうするのよ?」
エラそうな姉ではあったが、そもそもが生まれた時からエラそうな部類の人間だった。
姉もエラそうな人種だったし、母も大変エラそうな人だった。
もう遺伝子じゃないかしらとすら思っていた。
弟が来たばかりの頃、不安そうにしていたから、私は枕を抱えて夜中にこっそりと弟の部屋へ忍び込むのを習慣にしていたのだ。
◇ ◇ ◇
辺りは真っ暗で、公爵家は寝静まっている。
私は、コンコンと軽くノックをしてから、返事も聞かずにドアを開けた。
「キース」
続きの間からベッドルームに移ると、彼はベッドの上でビクリと体を震わせていた。
「大丈夫、ミシェールよ」
私は持っていた枕をポンポンと彼の枕の隣に置くと、よいしょとベッドに上った。
「寂しかったでしょ? 私が一緒に寝てあげるからね」
そう言って、小さな弟の手を取り繋いだ。
彼は兎に角、無抵抗な子供だった。
私が何を言っても、反抗して来ないし、静かに頷くばかり。
食事をしていても、勉強をしていても、何も反応を示さないのだ。
寂しいのかな?
お母様を亡くしたばかりですものね?
「キース」
私は、彼の黄色い髪を撫でる。
艶を消したような、真鍮色をしている。
サラサラしたストレート。
私にはクセが有ったから、ストレートは羨ましかった。
「キースのお母様は、寝る時にどうするの?」
彼は少しだけ紅くなって、モジモジする。
可愛い。
反応があった。
わたしはニコニコして問いかける。
「おやすみ。って言って、優しくキスしてくれた……」
なるほど、なるほど。
定番よね。
私はキースのおでこにチュッとキスをする。
「キース。いい子ね。お母様の宝物。おやすみなさい」
そう言って、胸の中に包み込むように抱いた。
私はお姉様だけど、お母様にもなってあげるわ。
だって弟はまだ六歳で。
お母様を亡くされて。
きっと寂しいに決まってるから。
知らない継母と知らない継姉に囲まれて、不安だろうから。
私が、きっと取り除いてあげる。
だって、私達は姉弟だから。
これからも、ずっと一緒に生きて行く。
だからーー
仲良くなりましょうね。
私の可愛い可愛い弟。