【八十七話】始まりの音
私は王宮の入り口で、中を窺いながら、ウロウロしていた。
私はどうするべき?
エスコートしてくれると言っていた第二王子様は、待てど暮らせど現れず、さりとてダンスパーティーに行かない? という訳にもいかず、一人で出向いて来たのだ。
というか、どういう事よ?
エスコートしてくれるんじゃないんかい。
エスコートフラワーだけ贈るなんて、ちょっとマナー違反よ!
私はプリプリと怒りながらも、現実に返る。
うん。
噂には聞いていたけど、誰にもエスコートされないって寂しいわね。
ちょっとどうしようかと思ってしまう。
でもーー
そうも言っていられないので、覚悟を決めて背筋を伸ばす。
大丈夫よ? ミシェール。
堂々と行くわよ?
私はコホンコホンと咳をして、仕切り直すように前を見る。
そして王宮のエントランスに入って行く。
少し遅れて入ったそこは、既に盛り上がっていた。
ダンスホール中央にいるのは、今回のパーティーの主役、第二王子様。
もう来てたんかい!
私は盛大に突っ込む。
そりゃそうよね。
卒業イベントの主役ですものね?
そして、その隣に立っているのは、異国のドレスを着ている女性だった。
あれはーーーーー
フィラル国、第一王女。
私は直感で理解した。
少し濃い蒼いドレスを着ている。
それが深く透き通る海の様で。
そのドレスに贅沢にも真珠があしらわれていた。
シャンデリアの光に反射して七色に輝いている。
綺麗なドレスね。
額にはやはり真珠のティアラをしていて、いかにも一国の長姫といった姿で。
腰まで伸ばした亜麻色の髪の毛がふわりふわりと揺れていた。
亜麻色?
真珠のようなプラチナブロンドではないのね?
フィル様も、第二王子様もプラチナブロンドだったので、そのいうものと思い込んでいたが、まあ、色々出るらしい。
でもーー
どうしよう。
覚悟をしていただけに、肩透かしというか………。
ここでファーストダンスをフィラル国の王女様と踊ったのだ。
どういう事と言われれば。
そういうことなのだろう。
私は二人の流れるようなダンスを見つめながら、ちょっと心が竦みそうになっていた。
セイもいない。
弟のキースもいない。
クラスメイトも互いの婚約者に夢中。
真っ赤なドレスに着飾って、こんな気合い充分な出で立ちをしながら、一人で立っているって辛いわね?
私ーーーー
振られたって事?
チクリと胸に痛みを感じる。
何か、今までのあれやこれやが、全ては蜃気楼のような。
夢の中?
どっちが夢?
過去?
それともーー今?
一瞬、胸が詰まって、涙が迫り上がって来そうになったが、寸での所で首を振って止める。
泣いても始まらない。
化粧が崩れて、もっと惨めになるだけよ。
このドレスに泣き顔なんて似合わないのよ?
私は堰き止めた涙を、胸の中に仕舞い込んで、十センチヒールですくりと立ち続ける。
今は、やるべき事をやるべきだと思い直す。
胸にポッカリと空いたような気持ちには、取り敢えずは蓋をして、シンデレラを探そう。
命を助けてもらったから。
例え振られたのだとしても。
その事実は変わらない。
そこをねじ曲げないで、受け止めよう。