【七話】 思ったより時間がありません
戦意空回り中?
私は約二週間も気を失っていた?
今日が落馬から14日目?
どういうこと?
この世界の医学凄いなっ!
いや、魔法か?
どっちだか分からないが、心底驚いた。
私、よく生きてたわね。
随分としぶとい生命力だわ。
私は変な所で、感心した。
いや、感心している場合じゃない。
ダンスパーティーまで半月しかないじゃないの!
どうするのよ?
私の心臓は早鐘を打ち始めた。
詳細は分からないが、私は二週間という長い時間、ただただ寝ていた事になる。
水分は取ってた?
ということよね。
ついでに現実的な話だが、小水は誰かが取っていた事になる……。
貴族なので十中八九メイドだろうが。
そうは言っても……。
花も恥じらう十六歳。
あぁ……。
忘れよう。
そして、もう考えるまい。
「お医者様って、お父様の侍医よね?」
好好爺とした医師を思い浮かべる。
可能性は一番高い。
だが、シンデレラは遠慮がちに首を横に振った。
違うんだ?
じゃあ、誰?
凄腕じゃない?
私はサイドテーブルに置いてある水差しに手を伸ばした。
病人は喉が渇くわよね。
水分補給。水分補給。
「恐れながら申し上げます」
? 恐れ??
どうして恐れながら?
別に怖くないでしょうよ?
「お姉様のお体を治療したのは、第二王子様です。隅々まで手当して頂きました」
私は盛大に水を吹き出した!
どうしてそうなった!?
あまりといえばあまりの事に、飲んでいた水を全てシンデレラにぶちまけた。
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
口から噴水だ。
勢いが凄かった。
驚きと比例してましたね。
ごめんね。
新手の虐めじゃないのよ?
素なのよ?
シンデレラはというと、卓上の布巾で顔を拭いている。
令嬢が顔を布巾で拭くなーっ。
しかも言うに事欠いて、体の隅々までって言った!
わざわざ言いましたよ、隅々まで手当てって!
私は顔から火が出るかと思った。
恥ずかしいってこういう事を言うのね?
性格は歪んでいるけど、これでも一応生娘なのよ?
少しは気を使ってくれても良いのよ?
「どういう事なの、シンデレラ」
「どういう事も、こういう事も有りません。第二王子様はミシェールお姉様の婚約者ではありませんか?」
「婚約者なの!?」
「はい」
「いつから?」
「落馬して気を失ってからです」
「気を失ってから話が進んだの!?」
「はい」
本人の意識のない所で、落馬した令嬢との婚約話を進める王子がどこにいるんだ!
驚いたよ!
だがしかし、シナリオは大分読めたぞ。
つまりアレでしょ?
私の看病をしているシンデレラと、治療に来た第二王子様の間で恋が芽生えたと。
有りがちだけど、一目惚れの鉄板だわ。
そのパターンね。
ベタなぶん読みやすいわ。
私は命懸けのピエロなのだが、ピエロ上等! 問題なし。
立派なクラウンを演じきる。
クラウンはいつでも笑っているものだから。
そして真実の愛を貫く為に、邪魔になった婚約者の私を、ダンスパーティでこっぴどく振るのね。
断罪イベント敢行。
シンデレラと第二王子様は手を取り合ってめでたしめでたし。
わかりやすくて良かったわ~。
ターゲットは第二王子だったか。
よし。
そうと決まれば話は早い。
この展開は、私が能動的に動かなくても、話がまとまりそうだわ。
嬉しい。
大好きな本ライフまで、カウントダウンに入った。
私は病み上がりなのに、妙にニコニコとした表情になり、うんうんと頷きながら水を飲む。
さっき飲みそびれたからね、沢山飲まないと。
そこへ、ノック音が響く。
メイドの一人が、シンデレラに何か言付ける。
お父様でも帰って来られたのかしら?
私は何の構えもなく、シンデレラの言葉を待った。
「お姉様、第二王子様がお忍びで参られたようです。場を整え、お通ししますので、お姉様の身支度を整えますね」
私は再度、水を吹いた。
再度、シンデレラの顔にだ。
もう一度言う、決して虐めではない。
素なのだ。
第二王子様、あなたが読めません。
ええ、読めませんとも!
それからは、あれよあれよという間に場が整えられ、私のもじゃもじゃの髪の毛が巻かれていく。
病人が縦ロール!?
金髪じゃなくて赤毛なのに!?
水が零れてしまった服は、それは可愛いナイトガウンで隠され、どこからどう見ても、着飾った病人になる。
何これ?
超恥ずかしいんだけど……。
さっき! 本当に今さっき生還したばかりの人間が、着飾ってるってどういう事っ。
これは悶絶級に恥ずかしい。
誰にって?
それはもちろん王子様にだ。
あなたを待っていました!
どうですか?
私、可愛くお支度出来ていますか?
てな感じの心理が透けていて、もの凄い抵抗があるのだ。
待っていたどころか、作戦の駒として、どうするべきかにうんうん唸っていただけなのに!
「お姉様、お支度が整いましたので、王子様に入室して頂きますね」
「………」
半泣き。
大袈裟ではなく本気で……。
こんな事になるのなら、もっと早くに王子様の情報を聞いておくんだった。
心の準備も頭の準備も出来ていない。
婚約に至った経緯も聞いていないわ。
心中で動揺しまくっていたのだが、扉の向こうから慌ただしくも緊張した気配が迫る。
来たのね。
当たり前だが、これ以上待たせる訳にはいかない。
覚悟を決めるしかない。
私は大きく唾を飲み込むと、臨戦態勢に入った。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
ブクマ&評価して頂けると嬉しいです!