【六十九話】歴史の終焉
昨日は投稿が間に合いませんでした…。
私達は微動だにせず、向かい合っていた。
今まで会った三人は、どこか掴めない、何を考えているか分からない、そんな雰囲気がしたものだ。
ーーだがしかし
目の前の令嬢はどうだろう?
これは……。
敵意剥き出し?
この令嬢は、こんな子だった?
大人しくて、穏やかで、物静か……。
そんな令嬢はどこに行ったのかしら?
第三公爵家令嬢、ティアナ・オールディス。
オールディス家の八番目の御息女だ。
八番目。
結構な数よね。
公爵家の奥様は、複数人いらっしゃる。
四人くらいだったと思う。
彼女は、四人目の奥様の御子だ。
第三公爵家って子供の数だけでも十人越えなのよね。
それはそれでサバイバルな環境だ。
爵位というのは一つしかない。
つまり、単純計算で爵位が九個足りないのだ。
女子は嫁がせるとして、男子はどうするか?
文官になるか。
武官になるか。
商人になるか。
市井に下るか。
婿養子になるか。
そのまま、長男のご厄介になるか。
これが一番無難よね?
肩身はせまいけどさ。
一番上の子息が爵位を継ぐのか基本だ。
そして継いだ長男に家族が出来、息子が二人くらい生まれれば、三男辺りから、お役ゴメン。
公爵家に生まれた人間が市井に下りるとか、そんな事はそうそうない訳で、後はたたき売りよね。
男爵、子爵、伯爵、侯爵家へどんどん嫁がせる。
どんどん婿入りさせる。
ティアナも誰かとご婚約をしていたかしら?
結構重要なところよね。
私は張り詰めた空気の中、物思いに耽っていた。
だってさー。
台本の一行目は挨拶なのだが、それすら言い出せない雰囲気なのよ?
黒髪の美少女がこちらをじっと見ている。
睨むように。
憎しみを込めて。
これは黒?
髪の色じゃなくてね。
私は勇気を振り絞って、微笑む。
「ごきげんよう。ティアナ様。今日はお目にかかれて嬉しいわ」
「…………」
あ、うん。
返事なしね。
オーケーオーケー。
でも、この子、なんでこんなに私を憎んでいるのかしら?
普通に考えれば第二王子様に懸想している訳だけど。
それで合ってる?
「ティアナ様の髪の色、とても綺麗ね。私、黒髪って親近感が沸きますの」
これ、もうアドリブですよ? セイ。
前世では黒髪に囲まれまくっていたので、親近感が沸くのはホント。
「…………」
あ、うん。
無視ね。
オーケーオーケー。
大丈夫よ。
ティアナって、ルーファスの事を、好きな素振りをしていたっけ?
次辺り直球で聞いて見る?
私はコホンと咳払いをした。
さあ、言うわよ。
「ミシェール様、こちらは今朝、詰んだばかりのラズベリーで作った、ラズベリー水です」
私はコケそうになる。
ああ、最高のタイミングで第一声を発してくれてありがとう。
頂くわ。
甘酸っぱくて美味しいのよね。
私は銀杯を持って来るよう、メイドに頼む。
王宮のラウンジを使う時は、こちらに用意している。
人前なので、頼んでみました。
いつもは自分でとっとと取ります。
テーブルに置かれた杯に、ティアナがラズベリー水を注いでくれたのだが、公爵令嬢自ら注ぐのって珍しいわね。
普通は使用人にさせるのだけど。
どうしてかしら?
持参した瓶をメイドに渡せばいいのに。
ほら、慣れない手付きで危ない。
令嬢中の令嬢だから、カトラリーより重い物を持ったことなさそうじゃない?
私は危なっかしい手付きを見ていたのだが、そこでもっと恐ろしい物を目にした。
嘘?
銀杯がみるみる黒ずんで行く。
「…………」
言葉が出ないとはこのことだ。
私はティアナの顔をじっと見つめる。
失礼は承知だが、見ずにはいられない。
銀が黒ずむということは………。
銀が黒ずむ理由は三つ。
その一つが毒なのだが……。
ヒ素系の毒だ。
ヒ素は猛毒。
吐き気。
嘔吐。
下痢。
腹痛。
大量に摂取すれば、脊髄障害にもなる恐れがある。
しかも、ヒ素の毒は、体内に残留するため、足が付きやすい。
この子、何を考えているんだろうか?
飲んでも、飲まなくても、身の破滅だ。
私……ではなく、公爵令嬢ティアナの。
私は黒ずんだ杯に目を注ぎながら、心の中では呆然としていた。
第三公爵令嬢に毒を盛られました。
歴史有る家でしたが、この瞬間に終わりましたね。