【六十八話】あなたで最後
とんでもない人達とばかり会ってきたけど、最後はやっと通常モード。
第三公爵家の御令嬢でしょ?
もう隣国の彼の方に比べれば、何でもない。
何と言っても同じ学年のクラスメイトだ。
安心安心。
ケーキでも食べてのんびり構えるわ。
私はサクサクのアップルパイにフォークを入れた。
このリンゴは冬に採れたものだけど、リンゴは日持ちする果物の代表。
蔵に貯蔵して置いた、最後の残りだと思う。
今シーズンラストかな。
時間が経ってしまったリンゴは、蜜が抜けてしまうが、その分身は柔らかい。
これはこれで別の楽しみ方がある。
アップルパイみたいな加工品にはピッタリね。
でも……。
この層になったパイ生地が……。
パイは小麦生地とバターをシート状にして交互に重ねていくのだけど、ちょっと重たいというかバターの油分が………。
私はアップルパイを一口大にしたところで途方に暮れる。
どうしよう?
私の体、甘い物が食べられなくなってしまったのだろうか?
ケーキが食べられないなんて、人生の楽しみの一部を失った事にはならないか?
うう(涙目)
これから私はこの世界で美味しいものを満喫出来ないのかな……。
落ち着いたらシュークリームとかショートケーキとか、作ってみたいのよね。
お菓子は幸せの鉄板だ。
なんていうか。
フィル様御推奨の愛妾とやらは、昼間は何やってるの?
という感じだ。
美味しいものを作って。
美味しいお茶を飲んで。
大好きな本を読もう。
やっぱり何度考えても悪くないわね?
しかし、第一王女様も、いきなり愛妾付きの婿って。
笑えないわ。
感じ悪くない?
それとも割り切ってる?
王族ってそういうとこ、割り切れるのかしらね。
私はどうなのかしら?
前世でいう所のお妾さんよね。
ルールは基本、本宅には迷惑は掛けない。
本妻さんにも迷惑を掛けない。
その代わりに生活が保証される。
こんなとこかしら。
つまり私、離宮にでも入るのかしら?
子供もいないのにそれはどうかな?
もっと詳しく条件を聞けば良かったわね。
しかしーー
フィル様もまだ若い。
これから息子が出来る可能性もありそうなのだが。
そこまでルーファスに拘るということは、一世代に一人しか顕現しないのかしらねー。
そうなって来ると、貴重なんでしょうね……。
私は目の前の台本をパラパラと捲る。
明日、会うのは第三公爵令嬢。
ドンピシャリだ。
初めて事前に知らされた。
今までなんだかんだでバタバタしていたし。
しかし、演劇ならまだしも現実の会話って、台本通りにいくのかなー。
百回読めって言われたけどさ、想定外のことが起きそうじゃない?
というか、この台本乙女の会話じゃないわ。
書いたのって誰?
セイなの?
こんなこと言うのは憚られるが、セイは脚本家にはならない方が良いと思う。
助言してあげよう。
誤字脱字報告機能での報告ありがとうごさいます。
安定の産出量?です。