【六十二話】価値観のルーツ
テーブルを挟んでセイと向かい合う。
手元にはフルーツ水。
コレ。
相変わらず美味しいわよね。
セイも同じ事を思っているらしく、定期的に飲んでいる。
「じゃあ、セイ先生、よろしく」
「先生じゃねーし」
いいじゃない。
一時的な先生になれば。
「じゃあ、秩序と物の考え方をお願いします」
「まず、基本から」
ええ。
基本からですね。
「オリヴィアの考えている事なら、ある程度分かって、シンデレラはちんぷんかんぷんな理由から」
ちんぷんかんぷんって。
そうだけど。
っていうか公爵令嬢なんですけど。
呼び捨てかい!
良いけどさ。
面白いけど。
「オリヴィアとシンデレラの違いを整理して」
違いといえば、一番シンプルな事は義妹ということだ。
「血が繋がっていない事かしら?」
シンデレラが血縁者かどうか?
実は微妙に分からない。
母は私達の父親はカールトン公爵だと言い張る……。
それをそのまま受け入れると、私の父親とシンデレラの父親は同じになる。
別腹の兄弟という事。
けど……、より確実で明確に言うならば。
「母親が違うって事かしら」
「そうなるな。母親が違うという所が大切だ。子供というのは十代前半まで、親の価値観を多分に受け継ぐ。それはもう、本人の選択のしようのない環境の問題だ」
そうね。
それはそう。
オリヴィアお姉様は母親の価値観、そし母の実家であるエアリー男爵家の理念を色濃く受け継いでいる。
そしてそれは私も同じなんだ。
意識していなくても、身に染み付いてしまっている。
私とオリヴィアお姉様の大きな共通点。
そしてシンデレラとの異なる点。
「人間は十代前半から後半に掛けて、親の価値観を受け継ぐにしろ、打ち破るにしろ自分自身の考え方を確立させる訳だ」
ふむふむ。
つまり、十代前半から後半にかけて、私とオリヴィアお姉様の違いが顕著になったと。
「この時期は不安定になりやすい。考え方が確立していないから、判断を間違えるし、そもそも基軸になる判断基準がないから、分からない。分からないけど決めなければいけない」
なるほど。
人の心理って意外なほど理屈が通っているのね。
「大きな決断から、小さな決断まで、人間は無数の決断を迫られる。けど、決断を下すという事は、脳に大きな負荷を与える」
恋というものは、人それぞれだけど、十代前半から後半にかけて起こる。
というか始まる。
シンデレラは八歳で実の母親と死別していて、思春期を迎えた。
彼女は誰の価値観を踏襲もしくは打ち破り、どうやって自分を確立したのだろう?
「価値観のルーツを看破すれば、人の考え方の六十パーセントは見えてくる」
「………」
「高い数字だろ?」
確かに。
異様に高い数字ね。
捨て置けないわ。